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フードリンクレポート

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2015年7月16日(木)17:45

行列のクレームで「俺のフレンチEBISU」撤退。苦しい「俺の揚子江」、「俺のスパニッシュ」。

“俺のシリーズ”の今。高回転率の維持は可能か(4-2)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年7月14日執筆

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 ミシュラン星付きグランメゾンで働いていたスーパーシェフを次々にスカウト。立ち飲み形式で、フォアグラ、トリュフのような高級食材を用いた料理を半分以下という驚愕の価格で提供し、高回転率で利益を取る「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」、「俺の割烹」などの"俺のシリーズ"。しかし今年に入って空席ができ始め、全席着席の店が増えたり、ニューヨーク進出のはずが中国と韓国に進出、競合店も増え始めたといったように、昨年までの飛ぶ鳥を落とすような勢いが削がれてきているのではないだろうか。フレンチでは能勢シェフらスーパーシェフの退職も相次いでいるが、さらなる成長は可能だろうか。(4回シリーズ)

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銀座8丁目ドミナントから外れ、集客厳しい「俺の揚子江」。

 わずか16坪の店舗で月商1900万円の「俺のイタリアン新橋本店」(2011年9月オープン)、1日4.7回転する驚異の大行列「俺のフレンチ銀座本店」(2012年5月オープン)など、数々の伝説をつくってきた高級立ち飲み"俺のシリーズ"。新橋に2店のイタリアンを出してからは、銀座8丁目に舞台を移し、銀座8丁目ドミナント戦略で隣近所に多店舗展開。「俺のイタリアン新橋本店」、「俺のフレンチ銀座本店」の大行列を上手に誘導し、1店ごとにミシュラン星付きレストラン級のスーパーシェフの個性が光る料理を出したため、相乗効果を生み、"俺のシリーズ"なら外れなしという、グルメファンの評価を受けてきた。
 
 また、系列の立ち飲みで2012年1月にオープンした「銀座しまだ」もまた、ミシュラン3つ星「麻布幸村」などで20年のキャリアを持つ料理人、島田博司氏を料理長に迎えて、『銀座の立ち飲み屋でなぜ行列ができるのか? 会計のプロが解き明かす最強ビジネスの法則』(柴山政行著、潮出版社、2013年10月20日初版発行)によれば、わずか収容人数14人の店舗で1日60~70人の顧客が来店し、約4.3回転もの高い回転率を誇っていたという。一般的な高級和食店なら1日6~8人が来れば御の字のところ、10倍もの顧客が押し寄せていたことになる。

アイフォン画像2015年6月俺のシリーズ 026.jpg
「銀座しまだ」。さすがに開店前からの行列は見られなくなってきている。

 この実績を背景に「俺の割烹銀座本店」が2013年3月にオープンし、"俺のシリーズ"の幹となる、フレンチ、イタリアン、和食の3本柱がしっかりと建つことになった。イタリアンでは直径30cmもの本格的な「ピッツァ・マルゲリータ」が580円、フレンチではフォアグラやトリュフといった高級食材を惜しみなく使った「牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニ」が店によって価格とアレンジが異なるものの1200~1300円ほど、和食では「からすみそば」が780円で提供した。

 皆、嘘みたいな安い値段で、抜群のコストパフォーマンスであり、しかもグランメゾン出身のスーパーシェフがオープンキッチンで調理して出すから信頼できて味も抜群。「食べログ」ユーザーは雄叫びをあげて、どの店にも軒並み高い評価を付けている。

 想定の顧客単価は、経営する俺の株式会社では3000円くらいでシミュレーションしているようだが、実際には顧客は4000~5000円くらいは使っている模様だ。ワインなど酒類は高くはないが決して安くもない、つまり経営する側としてはここに利益の源泉があるわけだが、飲む人はもっとそれ以上使っているだろう。それでも、顧客単価1万円は下らない高級店の料理が立食であることを我慢すれば、半額以下で食べられるのだからお得である。さすが百戦錬磨のブックオフ創業者、坂本孝氏のつくる店は違うと、誰もが納得しただろう。

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「俺のフレンチ・イタリアンAKASAKA」。赤坂見附駅の駅前にあり集客は好調に見えるが。

 "俺のシリーズ"が人気化した要因として、神戸大学大学院経営学研究科教授の尾崎弘之氏は著書『『俺のイタリアン』を生んだ男 「異能の起業家」坂本孝の経営哲学』(IBCパブリッシング、2014年5月6日第1刷発行)の中で、「デフレ経済でコストを削減するため、外食業界は大型化、チェーン化が進んできたが、これからは小規模なオーナーシェフの店が見直される傾向がある。『俺のシリーズ』の人気化がその証拠でもある」と記している。

 ところが、2013年以降、100席近く、それ以上の大型化に走ったのは、実際に顧客が並ぶほど来るからだろうが、スーパーシェフを身近に感じる良さを奪い、草創期からのファン離れを招くマイナス面もあった。2013年10月に基幹店「俺のフレンチ・イタリアンAOYAMA」がオープンした時には、確か坂本社長は「(外食革命の)とどめの一発」と言われていたと記憶する。

 そこで本当に東京の大型店は打ち止めにしていれば恐らく問題なかったものを、2014年前半には大森、赤坂にも出店し、とどめにとどめを重ねる10月の310席も収容する「キラリトギンザ」の「俺のイタリアン」及び「俺のフレンチ」出店まで突っ走ってしまった。その結果として、競合する銀座・新橋の店が自社店舗の顧客が奪われ、今まで上手に組み立ててきた、銀座8丁目ドミナント戦略が崩れてきた現状にある。

 大森にしても「俺のフレンチ・イタリアンOMORI」は今年4月に早くも店舗メンテナンスを行っているし、赤坂も今年6月「俺のイタリアンadachi」を閉めて「俺のフレンチ・イタリアンAKASAKA」に統合と、必ずしも順調とは言えないのかもしれない。チェーン化のほうは、同じ「俺のイタリアン」と名乗っていても、ピッツァ、ワインなどの共通メニューを除いて、メニューや価格は各店の裁量に任されている方式なので、こちらは通常の画一的なチェーンオペレーションと大きく異なり問題ないにしてもだ。

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赤坂の「俺のイタリアンadachi」は合併、閉店。代わりに「俺のだし」が近日オープン。

 「キラリトギンザ」にそこまでの大型店を出店した理由として、2014年9月の「俺のフレンチEBISU」閉店があるのではないか。「俺のフレンチEBISU」は2012年7月オープン。フランス・ボルドー生まれでミシュラン2つ星「レズィズ・ル・サントネール」などで修業し、「セントレジスホテル大阪」総料理長を務めていたニコラ・シュヴロリエ氏が当時、料理長に就任していて、連日長い行列をつくっていた。席数は、立席27席、着席8席の計35席。"俺のシリーズ"の中でも最も狭いほうの店だった。

 すぐ近くのコンビニの店員に聞いたところ、行列が狭い歩道まで伸びて、通行の妨げになり、隣の同業であるバルなどの店の集客にも影響を及ぼしていた。たび重なる近所からの苦情により、撤退を余儀なくされたらしい。「行列で苦情を言われて出て行くくらいなら、絶対に行列ができないようにする」と俺の株式会社経営陣は考え、合わせて310席もの大箱、「俺のイタリアンTOKYO」と、「俺のフレンチTOKYO」を新設したのではないだろうか。フレンチの料理長に、リベンジの意味合いもあってか、そのニコラ氏を異動させている。

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「俺の揚子江」の吉切鮫フカヒレ姿煮(2980円)。高級店なら1万円はする商品だ。

 行列は繁盛している証拠ではあるが、並ぶのが苦痛の人も多く、流行り物に飛びつく時間のある人なら行列は平気だろうが、本当にお店に来たい人に対して売り逃している一面もある。俺の株式会社では、スマートフォンなどモバイルからも簡単にアクセスできる、「トレタ」を使ったWeb予約システムを一部の店で試してきたが、今年5月2日より、同社ホームページより全店の予約が可能になった。60日前からの来店、電話での予約も継続するが、Webなら24時間アクセス可能なので、空いている時間帯を探して予約を取ることができる。うまく活用すれば、集客アップにつながるツールだが、予約するまでもなく空席が増えている現状では、一度来た顧客をリピートさせるために活用する方法を探ることが必要だろう。

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「俺の揚子江」でも「本日空席あります」。

 業態として厳しいのは、中華の「俺の揚子江」と「俺のスパニッシュ」だ。「俺の揚子江」は歌舞伎座に近い、昭和通りと晴海通りの交差点付近にあるが、銀座4丁目といっても東銀座エリアに入り、銀座8丁目ドミナントからは外れて孤立している。そこがまず不利だ。全席着席になっているが、椅子の座り心地が悪く、長居できる環境にない。歌舞伎座で歌舞伎を観劇する中高年の女性を顧客として狙いたいところだが、料理がおいしくてもゆっくりできないので一度来たらもうリピートはないだろう。

 "俺のシリーズ"のファンである、百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏は、「中華の業態はフレンチ、イタリアン、和食と違って、高級店と大衆店のメニューの違いが打ち出しにくかったのではないでしょうか。失敗だったでしょう」と語る。店員と話していても、来店客数はそこそこあっても、110席と席数が多いのでなかなか埋まらないのだそうだ。「俺の中華」という店名が恐らく商標の関係で使えず、「俺の揚子江」としたのもわかりにくく、影響している可能性がある。特大サイズのフカヒレの姿煮のような名物料理もあるので、いっそ「俺のフカヒレ」あたりにしたほうが良かったかもしれない。

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「俺のフレンチEBISU」跡地。今も後継テナントは決まっていない。

 「俺のスパニッシュ」の場合は、そもそもスペイン料理がそれほど日本で普及しておらず、イメージしにくい。安いスペインバルは今や日本に多数あるが、では高級スペイン料理とはどのようなものか。高級スペイン料理を格安で出しても、ピンと来ないのである。立席が満卓になることもあまりないようだ。

 集客というよりも、業態のオリジナリティーに疑問があるのは、「俺のそば」だ。提供している「肉そば」、「鶏そば」はどう見ても、「虎ノ門ヒルズ」の近くにある「港屋」の模倣である。田舎そばのようなごわついたそば、ラー油の入ったつゆ、2人前はあろうかという豪快な盛り付け。「港屋」に行った人なら皆感じるだろう。厳しい修業を積んでたどりついた境地が「港屋」の模倣だったというのは悲しいものがある。イタリアン、フレンチ、割烹に続く新業態開発が、意外とうまくいっていないのも、"俺のシリーズ"の停滞感を生んでいる。


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