スマートフォン版のフードリンクニュースを見る

広告

RSSフィード

トレンド

フードリンクレポート

2014年12月04日(木)16:57 トレンド

築地場内「寿司大」は、外国人観光客が早朝から5時間待ってでも食べたい寿司だった。

訪日外国人旅行者1000万人時代。外食インバウンドブランディング(5-1)

記事への評価

  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
0.0

取材・執筆 : 長浜淳之介 2014年12月3日執筆

キーワード :      

 中国人向けや東南アジア・アセアン諸国向けのビザ発給条件緩和、格安航空会社LCCの就航拡大、アベノミクスによる円安効果などが相まって、昨年訪日外国人旅行者数が初めて1000万人を突破。10年前に比べて倍増している。加えて、世界的な和食ブームにより、日本に来てぜひおいしい本物の和食を体験したいという、外国人が急増している。では、外国人は日本のレストランに何を求めていて、どういった食事、サービスが人気なのか。外食インバウンドの現況をリサーチしてみた。(5回シリーズ)


寿司大 010-1.jpg

築地場内「寿司大」は外国人顧客比率90%以上、5時間待ち当たり前の行列店。魚市場で働く人が食べられなくなってしまった。


 外国人に絶大な信頼がある、米国・マサチューセッツ州に本社がある世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」によると、「旅行者が選んだ人気高級レストラン」世界1位は、スペイン・バルセロナ郊外ジローナの「El Celler de Can Roca」が輝いた。日本のレストランは残念ながら、世界のベスト10には入っていないが、「旅行者が選んだ人気高級レストラン」の日本1位は、東京都中央区の「寿司大」が輝いた。ミシュランの星も取っていない、外食業界の話題にもほとんどならないような店がいきなり1位になっていることに驚くが、築地市場の場内にある店だ。銀座などにも「寿司大」という屋号の店は存在するが、そちらの店ではない。つまりは、築地場内にある、元々は築地卸売市場で働く人たちが利用するための食堂が、旅行者、特に海外からの旅行者にたいへんな人気になっている。4時間待ち、5時間待ちが当たり前と、凄まじい行列店となのである。


寿司大 013.jpg

雨の中、辛抱強く「寿司大」の行列に並ぶ外国人観光客。そこまでして食べたいのだ。


 「東京オリンピックの開催が決まったこともありますが、築地ブランドが売れてきています。毎日朝の5時から、観光客が一日に3000人が訪れますね。道が狭い中、言葉も通じない外国人がうろうろして、仕事で使っているバイクや三輪との人身事故も起こっています。京都や浅草より、築地という風潮は、こちらは観光地ではなく、魚関係の人が働く場所なので、嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちですね」と、東京都中央卸売市場築地市場管理課では、築地そのものが人気になっていることを指摘。その異常なほどの人気の高まりが必ずしも意に沿っていないと述べた。


寿司大 003-001.jpg

築地場内を歩くバックパッカー。明らかに魚市場関係者ではなく観光目的だ。


 「外国人観光客は銀座に泊まって、朝の5時頃に起きて歩いて築地までやってきます。寿司大、大和寿司あたりは外国人のお客様が90%以上。あまりの行列で、魚市場で働いている人はとてもじゃないが食べられませんよ」(東京都中央卸売市場築地市場管理課)。


 場内が手狭になっていて、豊洲移転が計画されている中、今のうちに伝統的な魚市場の雰囲気を醸し出す築地市場を見ておきたいという心理が、特に外国人観光客に働いているようだ。魚市場は日本中の漁港にいくらでもある。日本人にとっては、セリの風景などもわりと見慣れたもので、築地がそんなに特別なのかと思うのであるが、築地に日本中で一番品質の良い魚が集まることを、外国人観光客はよく知った上でやってくる。青森県下北半島の大間のまぐろも、一番良いものは築地に出荷され、地元住民の口には入らない。


 築地のまぐろのセリには、外国人の見学者が殺到しており、朝5時からの開催では、定員をはるかに上回る希望者が来るので、5時半と6時の2回に分けて見学してもらっている状況だ。それでもさばき切れずに断っているほどである。


寿司大 009-001.jpg

「大和寿司」。「寿司大」と同じ並びにあり、こちらも外国人観光客に人気。1~2時間待ちと推測される。


 和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて、世界的に和食人気が高まる中、和食と言えば魚料理、寿司といったイメージが外国人には強く、日本の魚市場の総本山たる築地こそ、和食を文化的に理解するためにも、ぜひとも見ておきたい観光地ということになるのだろう。


 少し統計が古いが、JTB総合研究所の「韓国、台湾からの訪日旅行(インバウンド)に関する調査」(2013年3月29日)でも、「観光の目的」は「日本食を楽しむ」がトップで、韓国人の59.9%、台湾人の57.3%が挙げていた。他の国からの観光客も、おそらくは似たような結果となっていて、訪日目的は「和食」が群を抜いている。つまりは、外国人は日本に来て本物の和食を体験したいと望んでいる。その本物のある場所が築地とみなされているのだ。


寿司大 072-001.jpg

「やまざき」。「寿司大」と「大和寿司」の間にあり、この店も行列ができる時間帯がある。


 そういうわけで、「寿司大」の人気が実際、どれほどのものなのか。朝5時過ぎに起床して、築地市場を訪問した。その日は雨が降っており、気温が低く、観光客は少なかろうと考えて日程を選んだ。


 7時前の大江戸線築地市場駅は降りる人もまばらであったが、何人か外国人の若者がリュックを背負って市場に向かっているのが目に付いた。場内に入ると、忙しく働く魚市場関係者に混じって、明らかに観光目的の服装をした人たちがパラパラと歩いていて、仕事に支障をきたしかねない混雑が見て取れた。市場の人たちが利用する、食堂が並ぶゾーンまで来て見ると、2軒の店の前に人だかり。看板を確認すると「寿司大」と「大和寿司」。やはり、この2店の人気は半端ではなかった。


寿司大 071.jpg

「やまざき」のメニュー。英語の表記もある。


 「寿司大」の場合はさらに、ファサードの前から数メートル離れた大きな通り沿いに、路地を行き交う人の邪魔にならないように残りの行列があって、既に40人以上並んでいた。30分ほど並んだ頃に、店員が何人連れなのか人数を聞きに来て、その時に4時間待ちであることを告げられた。恐るべし、「寿司大」。雨降りでも、7時に行列に加わったのでは、12時前にならないと寿司にありつけないのだ。


 店員の女性は、まず日本語で「お兄さん何人?」、「お姉さん何人?」と聞いていたが、通じないようなら英語に切り替えて聞いており、簡単な英語ならコミュニケーションが取れる。複雑な説明は日本語でなられていて、通じなくてもおかまいなし。外国人はたいがいが、1人か2人での来店で、多くても4人までという少人数のグループで訪れていた。


寿司大 004-001.jpg

「海鮮丼 大江戸」。この店も外国人に人気の店。「寿司大」を諦めて海鮮丼に並ぶ人もいる。


 行列にいる、ほとんどが台湾人か、香港人か、中国人か、要は中国系。韓国人もちらほら。欧米、中東、東南アジアから来た人もいた。日本人は自分たちだけだったが、9時を過ぎた頃から増えてきた。欧米系、東南アジア系も同じ頃から増えてきたが、あまりの行列に諦めて他の店に行く人が大半であった。この頃より、「大和寿司」の行列が倍くらいに膨らみ、「寿司大」と「大和寿司」の間にある寿司店「やまざき」にも行列ができてきた。


 中国系と韓国人は和食、寿司を求める気合が違う。朝5時から寒風、雨中に行列を並ぶのもいとわない。中国本土と、韓国は反日感情が強いはずだが、旨い本物の和食をどうしても食べたいという心の底からの叫びには抗し難いようだ。


寿司大 028.jpg

「寿司大」店内。営業は朝5時から昼2時まで。日、祝など築地市場の休業日休み。


 「寿司大」の行列は12、3人ずつ、約50分ごとに動く。狭い店に定員まで入れて、順繰りに全員を入れ替えるやり方で回していた。メニューは、7カンと巻物1本2600円の「にぎり寿司セット」と、10カンとお好きなにぎり1カンに巻物1本が付く4000円の「店長おまかせ寿司セット」と2種類のコースがある。2600円だと大トロなどが入らないので、4000円のコースを多くの人は注文する。あとは、単品で注文していくスタイルだ。行列も前のほうまで進んでくると、店に入る前に注文を順々に取っていく。行列を並んでいる間に、3回、小さな紙コップで温かいお茶が振舞われた。「やまざき」でも行列を並んでいる人に何回か、小さな紙コップでお茶を振舞っていて、サービスの良さがうかがわれた。


寿司大 033-001.jpg

「寿司大」では英語でセットの説明がなされている。


 いよいよ、入店。時計は11時半を回っていた。待つこと、約4時間40分。狭いカウンターに着席した時には軽くめまいがしたほどだ。店内は職人が3人。「長らくお待たせしました。疲れたでしょう」と恐縮している。


寿司大 062-001.jpg

「寿司大」日英対照メニュー表。


 まず最初に「どこの国から来たのか」と顧客に聞いていくが、台湾、中国がやはり多い。韓国からが1人。マレーシアからが1組2人。どこから来たかがわかると、その国の言葉で挨拶する。職人たちは、英語、中国語、韓国語、マレー語を駆使しており、それまで英語で話していたマレーシア人は、マレー語で話しかけられて非常に感激して喜んでいた。寿司を調理するシェフが、直接、自国の言葉で片言ででも話してくれる。そこに、外国人に人気の秘訣があることが確認できた。


寿司大 037-001.jpg

「寿司大」大トロ。外国人も大トロ、中トロは好きだが、欧米人は脂の乗ったブリなどの分かりやすいネタを好むとのこと。


 職人たちはネタを握って出す際に、その国の言葉で簡潔に説明する。ネタの新鮮さは無論のことだが、こはだなどは手の込んだ江戸前の仕事をして出すので、そういった仕事のパフォーマンスも外国人にとっては魅力に映るようだ。コースの最後に、お好きなにぎり1カンサービスの時には、日本語と英語で表記されたメニュー表が配られ、注文する楽しみと職人とのコミュニケーションがはかられる。


寿司大 044-001.jpg

「寿司大」ウニ。中国系の人はウニ、貝類を好むそうだ。


 職人たちは写真撮影にも気軽に応じて、旅の思い出づくりに協力。かつて巷によくいたような、腕は利くが無口で無愛想な職人とは全く違って、フレンドリーなのが印象に残った。築地市場にあってネタがとびきり新鮮というのもあるが、今は冷蔵・冷凍技術が発達しているし、実は熟成させたほうが旨いネタも多い。旨いかどうかだけで判断すれば、もっと旨いものを提供する寿司店もあるだろう。


寿司大 063-001.jpg

「寿司大」アナゴ。韓国人は圧倒的にアナゴを好むそうだ。


 しかし、コストパフォーマンスと、築地の雰囲気、店員の外国語を習得してコミュニケーションを取ろうとする努力、記念撮影に気軽に応じるフレンドリーさといったホスピタリティーを総合的に考えると、「寿司大」が外国人観光客にとって5時間待ってでも食べたい寿司なのだと、納得せざるをえなかった。

読者の感想

興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

この記事をどう思いますか?(★をクリックして送信ボタンを押してください)

興味深い
役に立つ
送信する
誰かに教えたい
  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

( 興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

Page Top