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フードリンクレポート

2015年8月19日(水)17:52 トレンド

達成率なんと9530%!クラウドファンディングで大成功したブックカフェも。

本格化する飲食店のクラウドファンディング活用(5-2)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年8月18日執筆

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 インターネットを使って、不特定多数の一般市民から小口の金額を募るクラウドファンディング。この仕組みを活用して、事業を始める企業、団体、個人が増えている。飲食店においても、独立開業、新規出店、店舗補修などで活用が進んできた。では、クラウドファンディングとはどのようなもので、どんな使い方ができるのか。取材してみた。(5回シリーズ)

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渋谷にブックカフェのような深夜1時まで営業する図書室をつくろうという「森の図書室」プロジェクトは圧倒的な共感を集めて953万円を約1ヶ月で調達し開業した。

 アメリカ、ヨーロッパで急速に広がり、日本でも盛り上がりを見せてきたクラウドファンディングではあるが、大きく3つの型に分かれる。それは、購入型、寄付型、投資型で、不特定多数のクラウド(群衆)から小口のお金を集めるファンディング(資金調達)と言っておきながら、金融業にあたるのは投資型のみである。支援者がお金を注ぎ込んで、金銭的なリターンを得られるのは投資型に限られるので、注意が必要だ。

 クラウドファンディングは、資金調達を企図するプロジェクトの提案者、プロジェクトに賛同して支援金を出す一般市民の支援者、提案者と支援者をマッチングさせるサイトを運営する企業・団体の三者で成り立っている。プロジェクトに賛同して支援金を出すのが、プロの目利きを行う金融会社ならベンチャーキャピタルになり、金銭的余裕のある多くはメンターを兼ねた起業家・経営者が個人的に支援するならエンジェルになる。クラウドファンディングは、ベンチャーキャピタル、エンジェルに似ているパトロンの新形態だが、あくまで市井に生活している必ずしもお金持ちでもない一般市民が、数千円から数万円の小口のお金を出し合って、夢の実現を企図するプロジェクト主唱者を支えることに特徴がある。

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購入型クラウドファンディング、キャンプファイヤーのサイト。

 最も普及しているのは購入型で、世界最大のクラウドファンディング企業でニューヨークに本社がある、キックスターターも購入型である。さて、まず購入型のクラウドファンディングについて見ていこう。購入型には、目標額に達しなければプロジェクト不成立となり支援者に返金される成功報酬型のオール・オア・ナッシング方式と、目標額に達しようが達しまいが募集を開始した時点でプロジェクトが成立していてリターンが履行されるオールイン方式がある。

 支援者目線が見て、よりプロジェクトの本気度が高く、リスクの少ないのはオール・オア・ナッシング方式。プロジェクト提案者にとって資金を集めやすく、プラットホームが収入を得やすいのはオールイン方式。ということになるが、どちらが優れているかはいちがいに言い切れない。

 日本では、日本最大のクラウドファンディング・プラットフォームをうたう、ハイパーインターネッツが運営する「キャンプファイヤー」がオール・オア・ナッシング方式である。

 「キャンプファイヤー」の同社Webサイトによれば、現在までに1300件以上のプロジェクトが、6万5000人以上の人々から総額約6億円を集めている。設立は2011年1月、サービス開始は同年6月で、実業家・政治活動家の家入一真氏が取締役に名を連ねている。支援者を募るプロジェクトの分野は、音楽、ゲーム、フード、ビジネス、スポーツ、社会貢献など19カテゴリーに上り、ノンジャンルである。公序良俗に引っかかるものや、著しく実現可能性が低いものは、審査によりプロジェクトの開始が認められないケースがある。

 プロジェクトは誰でも開始できるが、日本国内に住所があること、成人であること(未成年は後見人を立てる必要がある)、銀行口座があること、場合によっては身分を証明する書類の提出が求められる。あとは、プロジェクト提案者はブログを書くような感覚で「キャンプファイヤー」サイト上にプロジェクトのページを作成。完成してから、審査に入るという手順になる。

 目標金額は自由に設定できるが、必達が成立の条件なので、達しなければ1円も入らない。なのでサイトに載せるだけで満足しないで、賛同者が集まるように自らプロモーションすべきである。手数料は支援総額の20%で、目標金額に達しなかった場合は発生しない。成立するプロジェクトは5~6割となっている。 

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「森の図書室」店内。

 「もちろん、写真が少なければもう少し写真を載せるようになど、スタッフがアドバイスしますが、熱意が足りない人はプロジェクトが成立しない傾向があります。ページをしっかりとつくり込んで、自分の言葉でやりたいことやストーリーを伝えられている人が成功します」とPR担当の矢崎海氏。

 支援者の最低支援金額は500円から設定でき、レストランならば、たとえばオープンした際にはドリンクが1杯無料といったように、リターン(お返し)を設定すればいい。募集期間は最長80日まで設定できるが、「キャンプファイヤー」では30~45日を推奨している。1ヶ月くらいが、プロジェクト提案者が集中力を途切らせないで、プロモーションできる適切な期間と考えるからである。

 渋谷に深夜1時まで営業するブックカフェ、ブックバーのような図書室をつくるという「森の図書室」プロジェクトは、「キャンプファイヤー」を活用して、2014年4月末から5月末の約1ヶ月で、1737人の支援者から953万円もの支援総額を集めた。物件は当初より決まっており、あともうひと押しの10万円が目標であったが、なんと達成率9530%ものとてつもない金額が集まった。「こういう場所があったらいいなと思ってた」と多数のコメントが寄せられ、共感を集めたのが支援につながった。2014年6月に、店はオープンしている。

 リターンは500円~15万円まで7種類用意されていたが、500円のコースだけでも778人の支援者が集まり、38万9000円を調達している。500円のコースでは、お好きなドリンク1杯+お席、お礼のメッセージをリターン。また、1万円のコースには609人の支援者が集まり、500円コースのリターンに加えて、会員権(通常1万円、1年ごとに更新料1000円)、フェイスブックの秘密のグループ招待、希望の本を1冊名前入りで蔵書に収めるといったリターンが実施された。

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湯河原温泉街の再生を目指す食堂づくりのプロジェクトは、「レディーフォー」を使って目標80万円を上回る117万円を集めた。

 2011年4月設立で国内初のクラウドファンディング・サービスで国内最大をうたっている「レディーフォー」も、オール・オア・ナッシング方式である。2015年8月1日現在で、2900プロジェクトを成立させ、10万人の支援者が出資、累計支援金額は15億円となっている。公共性・社会貢献性の高いプロジェクトへの支援が多く、成功したプロジェクトは5万円から2000万円強と幅広く、平均的な目標金額は100万円となっている。

 目標額に達した場合「レディーフォー」は達成金額の17%を受け取るが、サイトにプロジェクトを掲載するだけなら無料である。「レディーフォー」ではたとえば、「湯河原の温泉場の再生を願う食堂づくりを応援」というプロジェクトが、77人の支援者から目標の80万円を超える117万円を集めて、今年8月8日に成立している。

 神奈川県の湯河原温泉湯元通りは歴史的な景観が残っているが、バブル崩壊以降の景気低迷で観光客が減っており、街歩きを楽しむにも、一息つけるような飲食店がなくなってしまっていた。そこで、焼売、角煮、ハンバーグなどの惣菜に定評のある加藤精肉店が、地域活性のために一念発起して隣の空き家を改装して、食堂をオープンさせる計画が進んでいるが、それを応援しようというものだ。

 リターンは3000円から10万円の4つのコースが設定されたが、3000円ではサンクスメールと「食事処かとう」の食事券1人分となっていた。最も購入者が多く55個が売れた1万円コースでは、3000円コースのリターンに加えて、惣菜セット(ハンバーグ小5個、焼売10個の宅配)が付加された。

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「マクアケ」は飲食の成功事例の多いクラウドファンディング。

 一方で、目標額に達しなくても、クラウドファンディングのサイトにページが開設されて、プロジェクトがスタートした時点で即時成立する、オールイン方式というものもあって、こちらはサイバーエージェント・クラウドファンディングが運営する「マクアケ」が代表格となっている。

 「マクアケ」はオール・オア・ナッシング方式でも可能ではあるが、2013年5月に設立されてから、現状約2年間で成立した800~900件のプロジェクトの主流をなしているのは、オールイン方式だ。日本では後発にあたるので、先行するサービスとの差別化をはかった面がある。

 オールイン方式でも、通常は目標金額と支援者募集期間が設定される。支援者に対しては必ずリターンを行わなければならない。支援額が少ないから途中で止めたは認められない。既に進行しているプロジェクトに対して有効なやり方であるが、大衆の審判を待たずに成立するので、マッチングする会社のプロジェクト審査能力が、より厳しく問われるだろう。

 「マクアケ」ではエントリーシートに、プロジェクト主唱者の個人情報をはじめ、集めたお金を正しく使うか、公序良俗に反しないかなどを記載してもらい、審査が通れば実行できるようになっている。「マクアケ」は支援者から集まった金額の15%を受け取り、5%は決済代行会社に渡る。残りの80%が、新規事業や起業を遂行するプロジェクト主唱者に渡るということになる。

 「支援者は、楽天市場やアマゾンのようなインターネット通販でモノを買うような感覚で、楽しみながら支援金を出していますね。単純に買うのではなくて、自分も意見を言いたい、プロジェクトに参加したいという人が多いです」と語るのは、サイバーエージェント・クラウドファンディング取締役の坊垣佳奈氏。

 支援金額の設定は500円でもいいが、リターンはお礼のメールをするなど、支援者の参加したい意欲に応えなければならない。飲食店なら支援した人は実際にオープン後に食事に行けるなど、リターンを魅力的に設計することが重要。また、支援者募集ページでは、コンセプトが伝わるようにページを作り込んで、できれば短い動画も織り交ぜて、数多く進行しているプロジェクトの中で、目立たせる努力が必要だ。

 「マクアケ」では20ほどのカテゴリーのうちで、フードやレストラン・バーなど食関連の実績が上がってきており、プロダクト、コンテンツに次いでベスト5に入る人気になっているとのこと。話題になったところでは、500万円以上集めた馬肉専門店、300万円近く集めた立ち飲み日本酒バルなどが、「マクアケ」を使って立ち上がっている。

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大阪で人気を博したとろさば料理専門店「サバー」は、東京進出の際に「マクアケ」を使ってクラウドファンディングを行った。東京でも人気店になっている。

 大阪の福島に2014年1月にオープンし、多数のメディアに紹介されて繁盛店となった、鯖やが経営するとろさば料理専門店「SABAR(サバー)」が、東京に進出する際に、「マクアケ」を活用して資金調達を行った。1000万円を目標額に設定したが、集まったのは193万380円だった。目標額には遠く届いていないのだが、オールイン方式なので、集まった金額の80%は「サバー」に、15%は「マクアケ」に、5%は決済代行会社に渡っており、支援者にはリターンが行われている。

 それでも200万円近くを集めており、クラウドファンディングで100万円以上集めるのは非常に困難な現状を考えれば、健闘したとも言える。今年3月、恵比寿に出店した「サバー」は大きな反響を呼び、人気店となっている。クラウドファンディングとして成功したかどうかは評価の分かれるところだが、飲食店のクラウドファンディング活用事例としても、斬新性が注目された宣伝効果もあったと思われる。

 支援するコースは5000円から100万円まで9種類用意されたが、7万3000円以上のコースは13万8000円のコースに2人支援者がついただけで、あまりに高額だと難しい。138人の支援者のうち103人は8000円コースを選択しており、8000円コースではお店がオープンしてから3ヶ月有効のVIPルーム予約が可能な会員権、1万2000円分の食事券(大阪の2店舗でも使用可、有効期限お店がオープンしてから1年)、支援者の名前を店舗に掲載、といったリターンが設定された。

 多くの人のポケットマネーから共感を得て支援金を募る、クラウドファンディングでは500円から1万円以内で、いかに魅力あるリターンを考えるかが重要だ。もちろん、新奇性ある実現可能なアイデアであるのが大前提。さらにはクラウドファンディングのサイトに載っただけで満足しないで、自ら周囲のリアルな友人、ネット上のつながりなどを通じて、積極的なアピール活動を行わなければ、夢の実現まで到達しないと言えるだろう。

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