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ぶっちゃけどうよ!

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2015年2月10日(火)10:27

不振が続くワタミ、「炭の鳥子」は「わたみん家」に代わり再建の起爆剤になれるのか。

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取材・執筆 : 高橋治人 2015年2月10日

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 総合居酒屋の不振は外食業界のニュースの中でもひとつの大きなトピックであるが、特に目立つ企業といえば「ワタミフードサービス株式会社」であろう。同社は2015年3月期決算の連結業績見通しで20億円としていた最終黒字を下方修正し、30億円の赤字に転落。結局3月1日付で社長が入れ替わると報じられたように、深刻な様子がうかがえる。また過労死裁判を巡ってのニュースがたびたび報じられる中で悪化した、マイナスのブランドイメージも赤字に影響しているといわざるを得ない。それを象徴するかのように、「ワタミ」の名を冠さない新しい居酒屋ブランドが数種誕生しているのをご存じだろうか。高価格路線の「銀政」や、逆に圧倒的コストパフォーマンスの「旨い屋」などがそれにあたるが、「炭の鳥子」という「わたみん家」と似たような業態も生まれている。今回はオープンから1年を迎えた、この「炭の鳥子」に訪問して実態を調査。「わたみん家」との違いを紹介するとともに、この新ブランドがワタミグループの救世主になれるのかをレポートしていきたい。

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半蔵門駅前店の外観。地下鉄出口目の前のメインロード沿いにあり、地下の店ではあるが存在には気づきやすい。

 訪問したのは半蔵門駅前店だ。「炭の鳥子」は2014年の1月21日にこの半蔵門店のほか有楽町日比谷口店と、椎名町駅前店の3店舗が同時にオープンした。それから1年以上経つが、多店舗展開には至っていない。それはもしかすると、テストマーケティングも目論んでのこの3店舗がそれほど目立って好調ではないということなのかもしれないが、それにしても、どの店も立地としては良いとも悪いともいえない場所ではないだろうか。ただ半蔵門店はその他2つと比べれば、利用者はほぼビジネスパーソンであることが予想されるという点において、データを取りやすい場所であるといえよう。

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総席数は約150。カウンター席とテーブル席のほか、パーテーションで区切られたボックス席もいくつか存在。デザインは「和民」や「わたみん家」同様、温かみのある和風居酒屋の設えだ。

 ビジネス街の最も書入れ時である金曜日に訪れてみると、客の入りは60%といったところだろうか。そのほとんどが、やはりスーツ姿だった。セミオープンタイプのキッチンで活気もそれなりにあり、全体的ににぎやか。談笑の声が響くような雰囲気で、それはそれで悪くないが「炭焼き」がテーマであるなら、もっと焼き場をアピールするような演出をおおげさにやって良いような気もした。煙が客席に行かないようにするための配慮かもしれないが、ガラスで区切られたキッチンはどことなくこぢんまりとした印象を受けてしまう。また総合居酒屋にありがちな和風の内装は、悪くもないが目新しさを感じるようなことは特になく、トレンドと比べると照明も暗い印象。この暗さはしっとりとした雰囲気をつくるには適しているかもしれないが、料理やドリンクが並ぶテーブルの上まで暗さを感じさせるようではもったいない。

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和民グループの連動企画として、吉本芸人発案のメニューがここでも展開されていた。

 サービスに関してはそつがない印象。提供のスピードは迅速でスタッフの元気も良く、追加ドリンクの声かけや皿の回収にも積極的だった。多くの総合居酒屋チェーンの中でも、ワタミグループのサービスは比較的高レベルだと感じる。これはニュースでたびたび批判の対象となる渡邉美樹会長の理念でもある「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」というコンセプトによるもので、ある意味極端に厳しいほど従業員教育が徹底されているということかもしれない。ただ、この半蔵門店では感じなかったものの、昨今噂される総合居酒屋の人手不足は深刻なようで、店によっては接客レベルの低いスタッフを雇用していたり、日本語はおろかおもてなしの心が十分に身に付いていない外国人スタッフばかりが勤務していることもあるなど、これに関しては"ブラック企業"のイメージが払しょくされていないがために、人手不足に悩まされているということを痛感してしまう。

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「よだれ鶏の小鉢」(421円)。四川料理の一品をベースにアレンジされており、本場のようなしびれるピリ辛感がありながら食べやすく仕上げられている。

 料理はおいしい。全国に500店舗以上を構える同グループは、「有限会社ワタミファーム」という会社を立ち上げるほど食材にはこだわっており、全国に11の農牧場を構えている。そして自社経営なので、新鮮、安心、安価というメリットを当然の如くたやすく提供できるのだ。また、メニューを見ると思い知らされるのだが、品数が非常に豊富で迷ってしまうぐらいである。ドリンクの種類も実に多彩で、たとえばウイスキーはサントリーと提携して山崎蒸溜所よりオリジナルの限定酒を製造していたり、ワインは約10種のボトルを用意していたり、日本酒は在庫希少といわれる「獺祭」やツウにも好まれる「伯楽星」、「真澄」などの純米吟醸酒、純米大吟醸酒がそろえられている。これは没個性といえる総合居酒屋の枠を超えるレベルだといっても過言ではない。

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「中ジョッキ生」はアサヒスーパードライ(486円)だが、瓶ならサントリーのモルツ・ザ・ドラフトとザ・プレミアムモルツもある。カリフォルニア料理の一品をアレンジした「特製 炭火焼コブサラダ」(529円)は、鶏の炭火焼とニンニクの効いたドレッシングが美味。

 しかし内装と同様、料理に関しても新しさを感じるようなことはなかった。これは当り障りのないものの提供を強いられる総合居酒屋の宿命かもしれないが、数年前からあまり代わり栄えがなく、時代遅れになりつつあるような気さえする。そして、次に筆者は重大な欠陥を発見することになるのである。それは「わたみん家」との差別化だ。

 はっきり言って、メニューに関しては違いを感じることができなかった。それもそのはずである。店の看板は違えど、メニューの内容も価格も「わたみん家」と一緒なのである。正式名称を比べても一目瞭然。それぞれ、「炭火やきとりと手づくり料理『わたみん家』」と、「炭火やきとりと手づくり料理『炭の鳥子』」でサブタイトルが同一なのだ。先述したが、「炭の鳥子」は"「ワタミブランド」は世間から本当にマイナスイメージを持たれているのか"を検証するテストマーケティングなのではないかという戦略さえも見えてくる。

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看板メニューの「焼とり盛合せ 5本」(745円)。手前からとり皮、ハツ、ヤゲンナンコツ、鶏レバー、ねぎまである。味はタレ、塩、味噌があり、味噌を選択した。

 1年経ってみて「炭の鳥子」の店舗数が増えていないということは、「ワタミブランド」の有無はあまり関係なかったということであろうか。とはいえ、メニューが豊富で味も接客も悪くない、そしてリーズナブルという好条件がそろっていながら不振であるその理由は、結局は総合居酒屋に付きまとう"どこにでもある没個性"から来ているのではないだろうか。さらには、非飲酒ユーザーを取り込めてチョイ飲みもできるファミリーレストランにニーズを奪われているからというのも理由に挙がりそうだ。

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磯の香りたっぷりの温かいあんが美味な「青海苔豆腐」(421円)と、宮崎のご当地料理をモチーフにした「親鶏の煙焼」(464円)。

 なにはともあれ、社長交代を行ったワタミの改革はすでにはじまっている。しかしそれは、前任社長・桑原 豊氏の掲げた「高付加価値・高単価」路線をわずか半年で一転し、かつてと同じ低価格戦略に戻したというのが第一段階だ。これは「消費者はチェーン店に安さを求める」という清水 邦晃新社長の読みであるようだが、牛丼チェーンをはじめとする他業種が質の向上とともに値上げを断行している中、果たして吉と出るのであろうか。特に総合居酒屋はここ数年で"安かろう悪かろう"や"どこに行っても同じ料理、同じ居心地"というイメージが定着してしまい、客離れが深刻化している。そこから脱却をはかるために同社の前代表や他社は個性を強調して高単価化しているわけであり、それによって功を奏している例も多数ある。そんな中、リーディングカンパニーのワタミは時流をまったく読まず、迷走の道を歩みだしたようにも見える。いずれにせよ、ワタミの正念場はこれからといえるだろう。

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