スシローの新業態「ツマミグイ」は、東京で「スシ女子会」ブームを起こせるか。

 近年、回転寿司チェーンは寿司のみならずラーメンやスイーツなどのメニューも揃え、ファミレス化が進み競争が激化。独自性をいかに出すか、新しいターゲット層を取り込めるかが生き残りのカギとなっている。そんな状況を一歩リードすべく、郊外を中心に全国386店舗展開する回転寿司業界のトップランナー「あきんどスシロー」が、都心の20代女性をメインターゲットにした新業態のスシダイニング「ツマミグイ」を2015年1月29日、中目黒にオープンした。東京で若い女性をターゲットにしているとなれば、友人たちとおしゃべりを楽しみ、明日の仕事への英気を養う「女子会」ははずせないキーワードである。果たして「ツマミグイ」は「スシ女子会」ブームを巻き起こせるか。開店から一ヶ月を迎えた「ツマミグイ」を訪れた。

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中目黒駅から徒歩5分。

 「ツマミグイ」は、チェーン店やカフェがまばらに並ぶ山手通り沿いにあり、白を基調とした明るい店構えが目立つため足を止める女性の通行人を多く見かけた。ここ数年バルやビストロ人気が続き、温かみのある店舗を見慣れている分、無駄のないデザインは逆に新鮮だ。

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洗練された都会のカフェのような雰囲気なので、「チェーンの寿司屋=子供連れのファミリー向け」「チェーンの寿司屋=入るのがちょっと恥ずかしい」というような女性が抱くイメージを一新してくれる。

 中目黒は高感度なアパレル・インテリアショップが並び、ライフスタイルにこだわりを持った人々が集まる街。また、目黒川沿いを中心に、カフェや個人経営の飲食店などもひしめき、食通が熱い視線を注ぐグルメな街でもある。ライバル飲食店が多いため、買い物帰りの飲食や女子会の候補に入れてもらえるかを検証するにはいい立地といえる。

 ちなみに、同じビルの2階にはいろは寿司、近隣にもいくつか寿司屋があり、寿司を求めるお客様の心をどれだけ掴めるかも確かめられるだろう。

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訪問したのは日曜日の夜6時、天候は雨という条件ながら満席。予約なしで訪れたお客様を2~3組お断りする状況であり、一ヶ月経っても景気は良い様子。

 年齢層は20代〜30代のカップルが半分を占め、20代〜50代までの女性2人組や、地元在住と思しき老夫婦、60代前後の男女8名グループも利用しており、カップル以外は割と年齢が高め。国民フードの「寿司」に特化しているということもあり、女性だけではなく幅広い年代に人気のようだ。ただ、この日に限ってかもしれないが「女子会」を開催しているようなグループはいなかった。

女子会には使われていないのか!?「ツマミグイ」の実態をレポートしながら、その理由を探ってみる。

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注文はすべてタブレットでオーダー。

 このシステムは、回転寿司やチェーンの居酒屋では取り入れられているが、それ以外あまり見かけることがない。はじめは扱いに戸惑うが、呼んでもなかなか店員が来ない、オーダー漏れといったストレスはなく注文は確実。寿司は機械で握られているため混雑時でも5分ほどで提供されるという早さはうれしい。

ただ2人ならば一緒に眺めて、お互い好きなものをタッチして注文すれば良いが、女子会などの大人数では誰かが注文をまとめるタブレット係になる、または順番にタブレットを回してひとりひとり注文するという若干の煩わしさがありそうだ。また、宴会用のコースメニューは揃えていなかった。

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看板メニューに掲げる「ひとくちロール」。全16種類あり、プライスは2貫108円~324円でサーモン、えび、アボカド・・・などいかにも女子受けしそうなラインナップだ。

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カラフルな見た目に、スマホを向けて写真を撮っている女性のお客様を数名見かけたが、新しいものが好きな女性たちはデパ地下などにあるロール寿司専門店などで、たいていの創作ロールを見慣れている。生ハムペッパーやスパイスチキンロールというようなメニューをみても特に珍しさは感じないため、「かわいい!」と盛りあがっても「おもしろい!」「あたらしい!」と言って会話が広がり話題になることはないかもしれない。

 女子会を想定するならば、ひとくちロールを大量に積み上げた「ロール寿司タワー」といったフォトジェニックで、SNSで拡散が狙えるパーティメニューがあってもいいと感じた。

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「にぎり寿司」は、1貫108円から540円まで、50円きざみで7段階のプライスに分けられ、44種類ほどのネタを1貫から注文可能。回転寿司に行くと通常は2貫セットなので、1貫から自由に注文できるのは女性にとってありがたい。

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女性のお客様向けにシャリは小さめで、たくさんつまめるよう工夫されている。機械で握られた感満載だが、特筆すべきは鮮度よし、大きさよしのネタ。「うまいすしを、腹一杯」をコンセプトに掲げ、新鮮なネタにもこだわっている「スシロー」の寿司を、都会の真ん中のオシャレな空間で、しかも回らない状態で味わえる、あたらしいスタイルといえる。

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「こだわり農園のごろごろ野菜サラダ」。最近はオーガニック志向の女性が増え、生産者が見える野菜への関心度は高い。

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「つくばの木村ファーム」の野菜とのことでこだわりがあるようだが、手のひらサイズで2~3人前824円という値段は高い。

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自ら店内奥のカウンターに取りに行く仕組みの前菜は、小鉢ひとつ324円。

 生ビールはグラス一杯648円、ワインもグラス一杯648円でチェーン店にしては高めの設定だ。店内には大きなワインセラーがあり、ワインはボトルで注文も可能。一本12,960円というシャンパーニュまで揃え、店側としては「スシ×ワイン女子会」の準備はできているようだ。

 客単価はディナー利用時で3,000円〜4,000円程度。中目黒で食事をするには妥当だが、ここは飲食店激戦区。「おいしいと満足できる料理」や「心温まるおもてなし」など、お客様の記憶に残る要素がなければリピートしてもらえないし、同じ金額を出すのであれば、次回は街の人気店に流れてしまうだろう。

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席数はソファやテーブル席あわせて64席。目的や人数に合わせて使い分けができそうだ。しかし、ソファ席以外はテーブル同士の距離が近く、あまりぶっちゃけた仕事や恋愛話をするのははばかられる。店内の照明がファミレス並に明るい、滞在平均時間は1時間半程度で回転率も早いという点を考えても、長居しにくいのでおしゃべりを楽しむ女子会にはやや不向き。

 その代わり、友人とさくっと一杯や、仕事帰りに軽く寿司をつまむなどの気軽なディナーには使い勝手が良さそうだ。実際カップルが多かったように、店内も洒落ているためデートの途中に食事するには気分がいい。数組の老夫婦が利用していた理由も、寿司屋に行くまでではないが、回転寿司チェーンやスーパーの寿司では味気ない、その中間をかなえてくれるちょうどいい店だからだろう。

 店員の話によると女性のおひとり様も多いそう。カフェのような雰囲気なので一人で入店するのも恥ずかしくないし、タブレットオーダーで注文も気楽だ。強いて言えば店の間口が全面ガラス張りのため丸見えであり、カウンター席がないので、そこを改善すればおひとり様はもっと利用しやすくなる。

 今後は「女子会ニーズ」に向けての改善も期待したいところだが、都心に生きる女性たちの店選びの目は厳しく、競合「かっぱ寿司」も2015年3月に若い女性を狙った新しいカフェタイプの店を愛知県にオープンするなど、同業態が増えることも予想されるため、女性たちを取り込むには一歩先をゆくサービスが必要だ。

 ガールズトークを心置きなく楽しめる空間づくりや大人数でシェアできるパーティメニュー、思わず写真を撮ってSNSにアップしたくなる斬新な料理、サプライズ企画の対応など、女性のさまざまなニーズとトレンドをいち早く読み解き、取り入れていくことで「ツマミグイ」の女子会はもっと増えていくだろう。「スシ女子会」ならぬ「ツマミグイ女子会」ブームが巻き起こる日もそう遠くはないはずだ。



取材・執筆 : 須田萌子 2015年3月19日

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