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フードリンクレポート

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2015年8月24日(月)18:24

555万円集めた馬肉専門店、292万円集めた日本酒バルは、お得なリターンでクラウドファンディングに成功。

本格化する飲食店のクラウドファンディング活用(5-5)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年8月23日執筆

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 インターネットを使って、不特定多数の一般市民から小口の金額を募るクラウドファンディング。この仕組みを活用して、事業を始める企業、団体、個人が増えている。飲食店においても、独立開業、新規出店、店舗補修などで活用が進んできた。では、クラウドファンディングとはどのようなもので、どんな使い方ができるのか。取材してみた。(5回シリーズ)

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完全会員制の馬肉専門店「ローストホース」。看板はなく、住所も、電話番号も非公開。会員はクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で支援した人に限定。

 東京都内・広尾エリアの某所にある、完全会員制の馬肉専門店「ローストホース」。店には看板はなく、住所も、電話番号も、実は会社組織になっているが社名も非公開である。会員と、会員に連れて行ってもらった人しか入ることができない。

 同店は株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング(以下、株式会社は省略)が運営するクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」を活用して、2014年12月にオープンしているが、会員は「Makuake」で支援した人に限定しており、新規の募集を行っていない。なので、知る人ぞ知る幻の絶品馬肉が食べられる、噂の店になっている。

 「ローストホース」は、「Makuake」により、506人のサポーターから555万7711円(税別)を集めた。目標の300万円は9時間で突破。最終的にこれ以上支援が集まると会員が増えすぎて予約の取れなくなる可能性があるとの判断で、やむなく途中で募集を打ち切っている。会員制にしたにもかかわらず、オープンから現在まで月初に受け付けている翌月の予約が1、2時間で埋まってしまうほどの人気ぶりで、会員なのに未だ店に行けていない人もいるほどだ。

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「ローストホース」個室。

 「元々、店長をしていた渋谷の『ローキー馬肉屋』の常連さんに、サイバーエージェントの社員の方がいらっしゃいまして、『今度、独立するんですけど』と話していたら、『Makuake』というものがあるんですよと紹介してもらったのがきっかけです」と語るのはオーナーの平山峰吉氏。

 半信半疑で、そんなに簡単に支援は集まらないだろうと始めた「Makuake」だったが、いざページを公開すると、9時間で目標の300万円に到達してしまい、平山氏自身非常に驚いた。

 「マクアケ」のスタッフからは、クラウドファンディングはインターネット上のサービスではあるが、リアルな人のつながりがベースになっていて、つながりのある人に対してプロジェクトをPRすることが大事だとアドバイスを受けた。人見知りな平山氏だが、始める以上は成功させたい。公開前に、お店に来た常連に声掛けしたり、お店で交換した名刺のアドレスにメールしたりと、コツコツとプロジェクトをPRした。その結果が出たということだ。

 成功した理由として、プロジェクトに支援したサポーターがもらえるリターンとして「会員権」を設定したことが大きい。会員権により自分たちだけの空間といった、プレミアム感が醸成され、人気に拍車をかけた。

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特製の石窯で馬肉を焼く。この石窯を買うためにクラウドファンディングを活用した。

 支援するコースは、8000円、1万円、1万5000円、3万円と4種類設けられた。1万円コースのリターンは、営業開始から1年間「Makuake」でしか手に入らない会員カードに加え、営業開始から1年間6500円の定額で飲み放題・食べ放題(定額は4人まで、一部ワインボトル等を除く)となる特典が付く。8000円コースは1万円コースと内容が同じで、先着100人限定ということで、プロジェクト開始直後に支援が集中した。

 どれだけ、飲んでも食べても6500円というのは、ユーザーから見て予算が立てやすく魅力的である。1万5000円コースは、1万円コースのリターンに加えてオリジナルTシャツが付き、それを着て来店すれば何かのサービスをするというもの。3万円コースは、さらに新店舗に設置する石窯にフルネームを刻印するサービスが付加された。

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「ローストホース」仕込み風景。

 リターンがシンプルに組み立てられており、低額の部分から支援者にとって魅力ある設計になっている。会員制の飲食店は決して珍しくないが、どうすれば会員になれるか、明確でないケースが多い。しかし「ローストホース」の場合は、「Makuake」で支援した人と明快なのが勝因である。

 平山氏がそもそも、クラウドファンディングを活用しようと考えたのは、開業資金は貯まっていたものの、厨房に石窯を導入したかったから。通常、厨房設備にかかる費用は250~300万円だが、石窯にも300万円ほど掛かり、倍の資金が必要なのである。

 「以前、京都で修業していた時に、『祇園さゝき』さんが石窯を入れて干物などを焼き始めたのですよ。それを食べに行った『菊乃井』主人の村田吉弘さんが旨いと絶賛していると聞きまして、石窯で肉を焼いたらどんなに旨いだろうかと、ずっと思っていました」。

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石窯で焼いた馬肉。

 その後、平山氏は熊本以外ではほとんど知られていなかった馬肉の奥深さを知り、5年前に大阪で馬肉専門焼肉「けとばし屋チャンピオン」を立ち上げ、さらには東京で馬肉ダイニング「ロッキー馬力屋」を共同で立ち上げ、今日の馬肉ブームの立役者となっていく。

 馬肉の旨さを東京、大阪で広めた平山氏が、長年温めてきた肉を石窯で焼く夢を、「マクアケ」ページ上で、石窯工場にて馬肉を試し焼きした風景を動画も交えて語ったのが、支援者の「応援したい」、「ぜひ食べてみたい」という共感を呼んだ側面もあった。

 馬肉を焼く石窯は世の中に存在していないので、オーダーメードで造ってもらったのが、厨房機器メーカーの藤村製作所。同社・藤村和由社長の指揮で、馬肉を焼くスペシャルな石窯は完成し、「Makuake」で支援した会員の舌をうならせている。平山氏が後で聞いたら、「祇園さゝき」の石窯を造った職人も藤村氏であったというオチも付いた。ところで、今後も同様の会員制を続けるかどうか、料金体系も含めて、平山氏は「検討中」とのことだ。

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「Makuake」を使って292万9300円を調達して開業した、池袋西口にある日本酒バル「KURAND SAKE MARKET(クランド サケ マーケット」。

 東京・池袋西口にある日本酒バル「KURAND SAKE MARKET(クランド サケ マーケット)も、「Makuake」を使って292万9300円を調達して開業した。目標金額60万円に対して488%と圧倒的支持を受けた。店舗は今年3月にオープンしている。プロジェクトスタートからたった2日で目標金額を達成。最終的に617人のサポーターを集めた。

 3000円(税別)を払えば、100種類以上揃う全国各地の日本酒が、時間無制限で飲み放題という、セルフ式立ち飲みの店で、日本酒好きにとっては天国のような店である。経営するリカー・イノベーションは、酒屋を本業としているが、日本酒ブーム到来と言われているものの、それは大都会の一部と海外の話で、日本酒の製造量、販売量が右肩下がりに落ちている実状に危惧を抱いている。

 「弊社では全国を歩いて、地元でしか売られていない、無名でもおいしいお酒を発掘してきました。そういうお酒を先入観なく試飲してもらうために考えた場所が、立ち飲みのセルフ式飲み放題でした」と、リカー・イノベーションの荻原恭朗社長は力を込めた。

 荻原氏によれば、全国で1500ほどある蔵元のうち、1200~1300は無名に埋もれている。しかし、最近では代替わりが進み、一般的な酒米・山田錦ではなくて、地元の米を使って、その土地でなければ出せない味を追求する蔵元が増えているという。

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立ち飲み、セルフで飲み放題という独特のシステム。料理持ち込み自由。

 顧客は冷蔵庫に入っている一升瓶から自由にお酒を引き出して、杯に注いで飲めるが、一升瓶には番号が振ってある。お酒のメニューは、資料ファイルのようになっており、その番号に相当する銘柄と酒造メーカーの説明が、短文と写真で紹介されていて、ストーリーと共に味わえる。フードはお店で提供するメニューもあるが、持ち込み自由なシステムだ。また、近隣のデパートの地下で買った総菜を持参して楽しむ人も多い。

 オープンしてからは、「Makuake」で募ったサポーターばかりでなく、池袋の若者に支持されて人気店となっている。顧客層は20代から30代前半が主流で、女性のほうが6割と多い。一方で、1人で飲みに来るのは男性が目立ち、本気でおいしいお酒を探している風情が漂っている。また、「クランド サケ マーケット」はこのままの勢いに乗って9月2日に2店舗目をオープンする予定だ。既に会員を募って蔵元で受注生産する頒布会を行っているが、今後「クランド サケ マーケット」が軌道に乗り、地方のお酒の認知が上がってくれば、通販に結び付けたいという。

 荻原氏によれば、「Makuake」でプロジェクトを行った理由は、「開業資金の調達が目的ではなく、プロモーションの一環としてクラウドファンディングを使いました。ぷらっと立ち寄る店ではありませんから、まずはネットから圧倒的な認知度を得たかったのです」とのこと。狙い通り大きな反響を呼び、一般誌、女性誌、フード業界誌など多くのメディアに取り上げられて、好調にスタートした。

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冷蔵庫に入っている日本酒を自由に取り出して飲める。

 「Makuake」でのリターンは、2300円から9万6000円まで、10種類と豊富に揃えた。最も支援が多かったのは、2300円コースで369人のサポーターが付いた。リターンとして23%オフで1年間有効の「クランド サケ マーケット」招待券が送られた。2番目に支援が多かった4600円コースは、同様の招待券がペアで使えるというものだった。

 最高額の9万6000円コースにも2人の支援があった。これは「クランド サケ マーケット」の20%オフ貸切権で、40名まで利用が可。「クランド サケ マーケット」ではリターンに個人、ペア、団体の割引券を効果的に設定。また、コースによってはオープニングパーティー参加権、お好きな日本酒をメニューに加えられるなど、サポーターの参加意識をくすぐり、クラウドファンディングに成功した。

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「クランド サケ マーケット」店内。経営するリカー・イノベーションは、お酒のエンタメ情報サイト「NOMOOO(ノモー)」も運営しておりそこでもクラウドファンディングの宣伝を行ったのが効いた。

 「クラウドファンディングを活用した飲食店舗の開業は、店舗オープン前から店舗のプロモーション・顧客獲得が費用をかけることなくできるため、非常に相性が良いことから、飲食店によるクラウドファンディングのプロジェクトは増えている」と「Makuake」を運営するサイバーエージェント・クラウドファンディング取締役の坊垣佳奈氏は語る。

 同社は店舗開業希望者に向け、9月7日にリクルートライフスタイルと共同で「店舗開業支援プログラムvol.3」と題した無料セミナーを、渋谷マークシティウエストで実施する。「Makuake」は資金調達だけでなく、プロモーションの手段としても有効だ。飲食店の場合、支援者がそのまま顧客となって、顧客獲得に直接つながるメリットがある。そのことは、「ローストホース」と「クランド サケ マーケット」の事例からも見て取れる。今はクラウドファンディングを活用しての開業にニュース価値があり、各種メディアから取材が入る可能性も高い。世間での注目度が上がってお店のPRになる。

 クラウドファンディングを成功させるためには、魅力的なページづくり、リターンの設計が必要だが、そこはキュレーターと呼ばれるスタッフが相談に乗って、サポートする。「プロジェクト実行者がコンセプトをきちんと伝えて、周りの人の応援をうまく巻き込むことが大切です。まずは周りの人に対してプロジェクトをPR・拡散することが必要です」と坊垣氏はアドバイスを送っている。自分についている顧客に声を掛けたり、告知のメールをしたりするところから始めてはいかがだろうか。

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サイバーエージェント・クラウドファンディング取締役・坊垣佳奈氏。

 最後に、クラウドファンディングのリスクについて少々述べておこう。クラウドファンディングの場合、多くはまだできていない、これからつくるお店を支援してもらうことになるが、実際はオープンが遅れたり、計画と違ったお店ができたりする可能性もある。お店ができても、思うように集客できず、内容を変更せざるを得なくなるかもしれない。

 購入型なら、リターンに設定した食事割引チケットや会員証の有効期限内に閉店することもあり得る。投資型なら、売り上げが上がらずに閉店、あるいは分配金や利回りを予想のように配れないケースもあり得る。また、クラウドファンディングを運営するプラットフォームの会社が倒産してしまうリスクもないとは言えない。

 もちろん、そこは納得して支援者は支援していると承知しているが、アメリカではプロジェクトが支援を募っていた時に言っていたことと、実際にしていることが違うと、問題になったケースもある。日本では今のところ、プラットフォーム、プロジェクト、パトロンの3者とも、意識の高い人が集まっているので、大きな問題は発生していないが、普及してくると、安易に参入してくる人が増えて、ツイッター、ブログ、「グルーポン」のような共同購入サイトで見られるごとく、炎上事件が起こってくるだろう。

 起業に、新規オープンに、顧客開拓にと、大きな可能性があるクラウドファンディングだけに、信頼性を損なうような事件を食い止めて、健全な発展をしていってもらいたいものだ。

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