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2015年4月24日(金)13:11 トレンド

キリンの新店「SVB」は西海岸の食文化を取り入れてクラフトビールの新たなフードペアリングを開拓。

クラフトビールのマリアージュを語る日は来るか?(3-3)

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取材・執筆 : 中山秀明 2015年4月24日

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 昨年秋、フードリンクニュースでは3回に渡ってさまざまなクラフトビールの飲食店を紹介するとともにブームの最先端をレポートしたが、その勢いはとどまることを知らず今年も外食トレンドの一翼を担っている。大きなトピックとしては大手のキリンビールが今春ついに直営レストラン「スプリングバレーブルワリー」をオープンさせたり、海外でも有名な国産クラフトビール・常陸野ネストのビアバー「常陸野ブルーイング・ラボ」が誕生したりといったことが挙げられるように、この潮流はまだまだ続くであろう。人気の理由のひとつが、世界的なコンペで優勝するほど国産クラフトビールの味が向上したことだが、一方で食中酒としてのクラフトビールはまだ一般的に受け入れられておらず、主には嗜好品として楽しまれているように思われる。しかしワインや焼酎と同じように、食事に合うポテンシャルは十分にあると確信してやまない。そこで今回は数あるクラフトビアレストランの中でも、特に料理にも力を入れている店舗に取材を申し入れ、ビールと料理のペアリングについて語ってもらった。全3回のレポートでお届けしよう。

クラフトビールのマリアージュを語る日は来るか?(3-1)

クラフト麦酒ビストロ「クラフトマン」は多彩なメニューを用意して自由なフードペアリングを提案。
クラフトビールのマリアージュを語る日は来るか?(3-2)
 
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東急電鉄が運営する複合施設「代官山ログロード」のオープンに合わせ4月17日に開店した「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」。ほかに米国ポートランド生まれの行列店「カムデンズ ブルー ☆ ドーナツ」なども同時オープンした。5月には「ブルーボトルコーヒー」の国内3号店も誕生する。

 初回はワンダーテーブル運営の「よなよなビアキッチン」にクローズアップ。持ち前の個性的なビールに対し、味にインパクトのある料理を用意するというフードペアリングを紹介した。次いで第2回は五反田と仙台で展開されている「クラフトマン」をレポートする中で、彼らは種類豊富なメニューを用意しているのもあり、あえて積極的にペアリングを提案せずに組み合わせの楽しみ方を用意するという事例に触れた。最後となる今回は、構想の発表から約9カ月の歳月を擁して4月17日にオープンしたキリンの一大プロジェクト「スプリングバレーブルワリー」の東京における旗艦店「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(略称:SVB TOKYO)のビジョンをお届けしよう。なお、先立っての概要はこちらをご覧いただければ幸いだ。
「クラフトビール体験型店舗「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」、ブルワリー併設で価値を実感。」

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店内は配管などをあえてむき出しにした武骨なスペースに、木目調のシンプルな家具を多用してナチュラルモダンな雰囲気に。奥にはビールの醸造タンクが数本並べられている。

 まず、「SVB TOKYO」には6種類のレギュラービールが用意されている。中でもフラッグシップとなるのが「496(ヨンキューロク)」)というモデルで、これはエールのような豊潤さとラガーのキレ、そしてIPAの濃密なホップ感も楽しめる味わいになっている。甘味・酸味・苦味の究極のバランスを追求したのだとか。そのほか、ロースト香と柔らかな甘味が印象的な黒ビール「Afterdark」や、一部に小麦を使用してフルーティーさを演出した「on the cloud」など、一般的には珍しい飲み口の一杯がそろっている。そして「COPELAND」という独自のピルスナービールが置いてあるのも同店の特徴だ。

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一番左が「496」。360mlのレギュラーが680円、600mlのメガパイントが1000円ですべて一律料金だ。入門用として各120mlを全種飲み比べができる「ビアフライト」は1000円で、テイスターは一杯120mlが200円となる。

 料理のほうも相当な力の入りようだ。シェフは「銀座サバティーニ」を経てイタリア各地で修業を重ね、その後ポートランドやサンフランシスコ等の西海岸の最先端食文化を視察して「カーディナル」各店のメニュー開発の中枢を担った大高英樹氏を招へい。そんな「SVB TOKYO」の名物は、自家製を含むシャルキュトリの数々や自家製スモーク料理で、ナッツ(700円)のほか肉(980円~)、魚(冷製メカジキ800円)と全6種類の燻製料理がラインナップ。さらにこれら以外にも前菜、サラダ、ピッツァ、パスタなど、ビール専門店であることが驚きなほど充実している。

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シャルキュトリ。自家製のパテ ド カンパーニュとグアンチャーレ(イタリア産ホホ肉の生ハム。カルボナーラには本来この肉が使われる)、イベリコ豚のサルシチョンの3種盛り合わせは1000円。これに自家製ポークリエットとイベリコ チョリソが加わる5種盛りが1800円だ。

 料理のメインテーマは"Farm to Table"。これはアメリカ西海岸に根付いている精神で、平たく言えば地産地消のこと。従って同社でも八ヶ岳や埼玉、静岡など近郊の農家と契約し、積極的に地場野菜を仕入れている。さらに自家製スモークには日本で定番のサクラチップではなく米国産ヒッコリーを使用、西海岸で好まれている西洋ケールをふんだんに使ったサラダ(ハ―フ800円/フル1400円)、本場のステーキハウス御用達のブロイラーオーブンを使用し、900度の高温で焼き上げるグリルの数々(例:Tボーンステーキ800g/9800円etc)など、西海岸の食文化が至るところに見られるのが同店の特徴だ。

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ピッツァはナポリ風で1500円~。本場でも御用達のカプート社の小麦を3種ブレンドするほど本格的だ。それ以外にもたとえばフレークソルトとホイップクリームで味わう「SVB特製焼きチョコレートケーキ」など、ペアリングを意識したデザートにも注目したい。

 そしてフードメニューリストの一覧にも各ビールのアイコンを随所に表記し、その料理とのペアリングをプッシュしている。中でも同店で特に顕著に感じられたのは、ビールを使った料理が多いという点だ。「ムール貝のビール蒸し」(ハーフ1000円/フル1800円/ホワイトビール「Daydreamを使用」)、「フィッシュ&チップス」(1400円/ピルスナー「COPELAND」を使用)、「ホップを使った自家製ブリオッシュ」(700円)、「リゾット496」(1600円)など、その数は多岐に渡る。とはいえ単にビールを料理に入れるだけはなく、繊細なビールに合った素材重視の野菜料理があったり、逆にクセの強いビールにマッチする濃厚な味付けにした一皿があったりと、幅広く用意しているのもポイントだ。

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メニューリストには各ビールのアイコンを表記。フードペアリングを親切にレコメンドしている。また別の欄では醸造家やビールの原料、スペックなどを「見える化」。ビール造りも"Farm to Table"なのだ。

 これだけ明確にペアリングをするには、やはり相応の理由があった。スプリングバレーブルワリー株式会社でエグゼクティブディレクター兼スーパーバイザーを務める島田新一氏は語る。「当店は、クラフトビールのファンの方はもちろん、あまりクラフトビールを飲んだことがないという方が入門として利用できる価値も提供していきたいと思っています。ですのでコンセプトはなるべく明確に。そしてクラフトビールのおいしさや面白さも、できるだけ分かりやすくお伝えしていきたいと考えています。その例のひとつがフードペアリングといえるでしょう。日本人の多くはピルスナーに親しみがあり、確かにピルスナーはどんな料理にも合うスタイルです。しかし、それ以外のスタイルの中には、ピルスナーほど万能に合わずとも、ある料理と一緒ならそれ以上の相性の良さを感じられるものもあります。そんな新たな発見や楽しみ方を、フードペアリングで体験してほしいですね」

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入口にはウイスキー樽が。これはビールの熟成用に用意されているものだという。飲める日が待ち遠しい。

 若者のビール離れや嗜好の多様化、少子高齢化などが影響して、ビール全体としての市場は芳しくない状況が続いており、さらに人口減少という社会問題を鑑みると、今後も深刻であることがうかがえる。ビール市場の多くを担うキリンビールとしては、クラフトビールメーカー以上に頭を悩ませているはずだ。しかしだからこそ、あの手この手で業界を盛り上げていくというのも大手の使命なのかもしれない。島田氏は「クラフトビールは世界的なトレンドですが、それと比較すると日本は後発かつゆっくりとしたブームです。国際化が進み、2020年にはオリンピックも開催される日本ですから、クラフトビールはもっと盛り上がるはず。今はシェアの1%弱ですが、私は5年後には3%以上に広げたいと思っていますし、そのために『SVB』を別会社として立ち上げました。一過性のブームにはしたくありませんから」とクラフトビールの可能性にかけた想いを語る。

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島田氏。これまで数多くのレストランとのパイプ役として尽力してきた。「SVB」では、キリンにはなかなかできない実験的な商品の販売など新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと語る。

 消費者の多くが好む大衆的なビールではなく、醸造家が理想とするビールを追求する。新たな価値を模索して、これまでにない味のビールを生む。お客様の感想をダイレクトに受け止めて、トライ&エラーしながら商品を作る。これらはなかなか大手にはできないからこその「SVB」だ。実は「SVB TOKYO」には21本ものタンクがあり、まだまだ多くのトライをすることが可能。そして同様に、フードにも大胆な試みが新たに盛り込まれていくのではないかと推測できる。「SVB」のコンセプトである「体験」と「参加」、その一端を担うフードペアリングが今後どのように受け入れられ、花開いていくのか。そしてオリンピックイヤーの2020年には、「SBV」をはじめとする多くの飲食店の試みがビール市場とクラフトビールの拡大にどう貢献しているのか。各メディアの注目度が大きいように、われわれも強く見守っていきたい。

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