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取材・執筆 : 中山秀明 2017年2月13日
滋賀県長浜を拠点に、バルや和食店など多彩な繁盛レストランを6店展開する株式会社nadeshicoの細川雄也代表取締役。氏は昨年末に居酒屋甲子園理事長に就任するなど活躍著しいが、時をほぼ同じくして代表を務める株式会社ゼロサンよりまったく新しい形のビストロを東京・渋谷に出店。それが12月17日にオープンした「ターブル・オー・トロワ」だ。6次産業化ファンドを活用したことでも大きな話題になっているが、地方と首都の新たな架け橋のモデルケースとなるのだろうか。
最寄りは京王井の頭線の神泉駅だが、渋谷駅からも徒歩10分程度。松濤は高級住宅地であると同時に大人向けの美食店が多く、街の雰囲気も渋谷駅前の喧騒とは少々異なる。
東京進出への動きが開始したのは、おおよそ2015年の暮れ。農林水産省の「農林漁業成長産業化支援機構」より細川氏に打診があり、滋賀で鮎の養殖業を営む鳥塚康弘氏(株式会社鳥塚)と、同じく地元で近江米を農作する吉田道明氏(吉田農園)を中心に、滋賀から東京への"ファームトゥテーブル"を盛り上げていくためのプロジェクトが進められた。
「ターブル・オー・トロワ」のメニュー内のページ。各生産者のストーリーがイラスト付きで載っており、文字通り顔の見えるコンテンツとなっている。
出店にあたり、候補地の希望はいくつもあった。たとえば日本橋から銀座にかけてのエリアはアンテナショップ的な店は多いが、渋谷になったのはあくまでも物件ありき。50~60件を見比べる中で、立地、家賃、間取りといった希望の条件をそろえていたのがこの地だった。結果、2フロアで50席のビストロが誕生する。
コンクリートのスペースに、木目調とスチールの家具が並ぶモダンな暖色の空間。1階はオープンキッチンのカウンターとハイテーブル×スツールのダイニングが中心だ。2階はベンチシートなども設えられており、よりくつろげる雰囲気となっている。
業態をビストロにしたのにもさまざまな狙いがある。まず、和食ではあくまでもご当地料理店になってしまいがちだから。そこにあって、フレンチは食材を生かすとともに変幻自在のソースでも楽しめるのが醍醐味。野菜や肉などはもちろん調味料も滋賀のものを用い、驚きあふれる一皿をプレゼンテーションしたいというのが細川氏の想いなのだ。素材の一例と、代表的なメニューを見ていこう。
琵琶湖産の鮎と、稚鮎。半年~1年で育てられ、きめ細やかな鱗と清らかな風味が特徴だ。このほか琵琶鱒などの淡水魚も味わえる。
美しい霜降りと、粘り気のある艶やかな脂が美味な近江牛はA4ランク以上のものを使用。豚肉は滋賀の有名菓子店「クラブハリエ」のバウムクーヘンなどを食べて育った、豊かな甘い香りを持つ「バウムクーヘン豚」だ。
「03シャルキュトリー盛り合わせ」(税抜1780円)。近江鶏のレバームース、バウムクーヘン豚のリエット、近江牛の冷製ローストビーフなど、滋賀が誇る肉のドリームチームが一堂に。仕入れによって6~7点盛りとなり、各単品でも用意されている。
「近江のバーニャカウダ」(税抜1080円)。旬の近江野菜が、この日は13種類と盛りだくさん。ソースのベースにはアンチョビではなく、やはり滋賀の老舗「九重味噌製造」の「極上白味噌」を使用する。
ドリンクもほとんどが滋賀県産だ。ビールは「長浜浪漫ビール」の人気5銘柄を150ml400円(税抜)から生で用意し、5種飲み比べセットも税抜1880円でラインナップ。またワインは「ヒトミワイナリー」と「琵琶湖ワイナリー」の商品を随時入れ替えで提供し、ほかに海外のワインもある。
この写真はディスプレイ用の瓶ビールだが、実際にはタップからドラフトで注がれる。テイスティング向けの150mlから560mlのラージ(税抜1000円)までサイズは4種類。
本拠地の滋賀で活動する細川氏に代わり、取材時は現場のマネージメントにあたる株式会社ゼロサンの中川拓紀取締役がインタビューに応じてくれた。元は「近江バル nadeshico」の店長であり、自信も滋賀県出身という中川氏。オープンしてからの手ごたえや今後の展望などを聞いてみた。
滋賀産のワインは希少銘柄が多く、ボトル5000円~というプライス。なおハウスワインはグラス500円、ボトル2800円程度から提供されている。
「大きく広告を打ってはいないので、現状は近隣にお住まいの方や同業の方が中心ですね。普通のビストロではないので、面白がっていただいているのではないかと思います。ただいずれにせよ、滋賀県が食材の宝庫であることは、東京の人にまだそれほど認知されていません。たとえば琵琶湖の雄大な自然に育まれた淡水魚と、日本三大和牛に数えられる近江牛。酒造りも盛んで、日本酒やワインはもちろん最近ではクラフトラムの『ナインリーヴズ』や、長浜浪漫ビールが新たに立ち上げたウイスキーのマイクロディスティラリー『長濱蒸溜所』など、多様性でいえば国内屈指の豊かさです。この魅力を、ビストロならではの斬新なスタイルで伝えていけたらいいですね」(中川氏)
6次産業という言葉自体は珍しいものではないが、同社のように地元の生産者が出資まで応援する形はかなり画期的である。中川氏は「当店で滋賀に触れる中で、今度現地に行ってみようかなと思ってもらえるだけでも」と想いを語る。2020年の東京オリンピックに向けて盛り上がる渋谷は、訪日外国人観光客も多く大きな未来が広がる街だ。決してインバウンド需要を狙っているわけではないという一歩、海外進出は目指していきたいというのが同社のビジョン。「ゼロサン」は東京の03ではなく、"0はオー、3はミでオーミ"、そしてトロワはフランス語で3。クールジャパン、そして新たなディスカバージャパンの形としても、同店の取り組みに今後も注目していきたい。
■TABLE O TROIS (ターブル・オー・トロワ)
住所:東京都渋谷区松濤1-28-6 ポルト渋谷松濤
TEL. 03-6427-0730
営業時間:月~金17:00〜翌4:00(LO3:00)、土祝17:00〜23:00(LO22:00)
定休日:日曜日
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