お店を知る
九州以外にはあまり出回らない鹿児島・中俣酒造の焼酎と、それに合う鮮魚を味わえる店として人気を博す「八丁堀 茂助」(東京都中央区・株式会社ザガット 代表取締役:栗原秀輔)。2010年にオープンした同店は、その後八丁堀に「中俣酒造 茂助」、「中俣酒造 館」と順調に姉妹店を増やしてきたが、10月19日に4店舗目となる「のどぐろ専門 銀座 中俣」をオープンさせた。店名の通り、コンセプトはのどぐろで場所は初出店となる銀座。今までの店づくりとはやや異なる展開だが、発想や狙いはいかに? 店舗にて代表の栗原氏を訪ねた。
最寄り駅は東銀座で、徒歩1分と近い。「いきなり!ステーキ」の1号店となった銀座4丁目店と同じ並びにあるとともに、「俺の揚子江 銀座4丁目」の裏でもある。
のどぐろといえば高級魚として知られている。朝獲れのさまざまな鮮魚を扱う同社の既存店でもいちメニューとして提供していたが、特にのどぐろの人気が高かったことが、専門店にしようと思った理由のひとつだ。ほかにも自慢の焼酎によく合うということや、銀座という街の客層を鑑みて、このコンセプトに決めたという。実際、料理のほとんどはのどぐろを使ったもので、造り、焼き、煮物、揚げ、鍋、サラダなどその数は30種類以上。のどぐろだけでこれだけの勝負をしている店は、銀座はおろか全国を見てもそうはないだろう。
主に使用するのは、長崎県対馬沖で獲れるブランド「紅瞳」。島根や北陸のイメージが強いのどぐろだが、食べ比べた結果、脂の乗りやうまみは「紅瞳」が随一だったとか。
真の美食の街といえる銀座には、肉、魚、野菜、酒と、あらゆるうまいものがそろっている。だがその中でも「『のどぐろに関しては中俣が一番おいしい』と言われるようになりたいし、その自信は十分にあります」と栗原氏。確かに、ブランドだけではなくサイズにもこだわっており、基本的に500g弱の最も脂が乗ったものを選ぶようにしている。銀座を闊歩する食通を満足させるには「ふらっと入る」ではなく「わざわざ足を運ぶ」という目的型の来店動機に紐付けなくてはならない。ほかの店にはない専門性がなければならないと同時に、期待値を超える圧倒的なおいしさが重要なのだ。
名物のひとつである「のどぐろ姿塩焼き」(税抜3980円)。シンプルながら、「紅瞳」のもっちりとした食感と濃厚な脂のうまみを最も感じられるのがこの調理法だという。
こちらも売れ筋の「のどぐろしゃぶしゃぶ」(税抜1980円/1人前)。通年でもお薦めだが、鍋が重宝される今の時期は特に人気が高い。
実際、客単価でみると八丁堀は6000~7000円台なのに対し、銀座は約1万円。また、八丁堀は8割がオフィスワーカーで40~50代の男性が中心となり、9割のお客様はリピーターになっていただけるという。一方銀座はまだオープンしたてで様子見ではあるものの、ショッピングや歌舞伎座観覧など、観光や遊び目的で銀座を訪れる方の来店が半分ほどを占めるという。そして内装に関しても、銀座はより高級感が醸し出されるデザインだ。
既存店と同じく和の趣をふんだんに感じられる意匠だが、ここは最もラグジュアリーな雰囲気に仕上げられている。オープンキッチンのスタイルで、ライブ感も十分。
ボックスタイプのテーブル席は、半透明のロールカーテンで区切ることが可能。ほどよいプライベート感が保たれる。
奥のスペースは完全個室で14名まで楽しめる。よりしっとりとした雰囲気で、接待や宴会にぴったりだ。
ドリンクはなんといっても焼酎。冒頭で述べたように、中俣酒造の希少な焼酎を存分に楽しめるのが最大の特徴だが、その理由は蔵元直営だから。鹿児島で110年以上続く蔵元の「中俣合名会社」を立ち上げたのが、高祖父の中俣茂助というルーツがあり、毎年秋には栗原氏を中心に自社のメンバーで焼酎造りに蔵元へ赴く。自ら造り上げた酒であるがゆえに一つひとつの銘柄に想いがこもり、その情熱がお客様にも伝わるというわけだ。
基本は8種の定番銘柄があり、さらに数種の限定が加わることで約15種のラインナップとなる。それぞれに味のキャラクターがあり、濃厚なもの、フルーティーなものと種類はさまざま。好きなものを3種選べる「利き酒」も980円(税抜)で楽しめる。
中俣酒造の焼酎の特徴は、"辛いだけでなく甘みの引き立ったおいしさ"だ。だからこそ繊細な魚介類や野菜のうまみを邪魔せず、むしろ素材のよさを引き出して包み込む。この魅力を最も楽しめるのが、一番人気の「桐野」。味の秘密は仕込みに使われる米にあり、「桐野」の場合は日本酒造りで最もメジャーな酒造好適米の「山田錦」が採用される。これにより、透き通るような飲みやすさがありながらふくよかなうまみの一本に仕上げられているのだ。なお、この味わいを生み出した杜氏は、焼酎造りの名門「黒瀬」一族にあって"神の手を持つ"と称された名匠・黒瀬勉氏である。
左が一番人気の「桐野」(税抜730円)。中央が黒麹仕込みの「なかまた」(税抜680円)、右が限定品の「紫芋の中俣」(税抜730円)。
提供されるグラスはこのサイズで、一般的な居酒屋の倍以上の量をこぼれるまで並々と注ぐ。「おいしい焼酎をたくさん味わってほしい」という想いからであり、それを鑑みれば決して高くない価格だ。
だが、もともとのスタートは焼酎ありきではない。栗原氏も実弟の中俣氏も、キャリアはふぐを専門とする日本料理店からはじまり、自身らもふぐ調理師免許を持つ職人である。その経験を活かし、2007年に「八丁堀 茂助」の前身となる和食の店を、株式会社ザガットの設立とともにオープンした。やがてある時、店のスタッフを蔵元に連れて行った際に、中俣酒造の焼酎のうまさや魚との相性のよさを再認識し、このコンセプトを掲げた店の立ち上げを決意したという。
刺身の定番はこの「のどぐろ刺身・薄造り五点盛り合わせ」(税抜2480円)。のどぐろ以外の魚も抜群にうまい、その理由は築地で高級寿司店を得意とする仲卸から特別に仕入れているからである。
今後の展開にも意欲的だ。原点を八丁堀に構えたのは、日本屈指の市場である築地が中央区にあるからであり、できるだけ鮮度のよい魚を提供するためには市場から近いほうがいいというのが大きな理由。そのため、これからも中央区をメインに展開していきたいという想いは変わらない。好条件さえ揃えば、焼酎×うまい魚という変わらぬテーマで新たな店づくりも進めたいと栗原氏は語る。
「のどぐろ一尾丸ごと土鍋御飯」(税抜4980円)。味はもちろん豪快なビジュアルも秀逸だ。
一方で、実は同社はたい焼きの人気ブランド「神田達磨」をのれん分けで新橋と上野に展開している。この理由も面白く、実は「神田達磨」の運営元である「株式会社ルーツ」代表の大浜泰広氏は、栗原氏がふぐ料理店で働いていた時からの関係。その縁と信頼関係によって、2店舗を任されるに至った。
「神田達磨」といえば、羽根付きのたい焼きで有名。ほかにはない独特の食感やルックスの面白さなどで、老舗が強い人気を誇るたい焼き業界にあって、新進気鋭ながら高い評価を得ている。
近年、総合居酒屋業態が低迷しているひとつの理由は"なんでもある"という没個性だ。逆にいえば"ここにしかない"魅力がある店は好調で、その希少性がネットやTVなどで拡散されて多くの脚光を浴びるというのが昨今の人気店の傾向である。特に銀座のように、流行感度の高い人が集まる街ではその特性がよりキーポイントとなるはずだ。そこにあって「のどぐろ専門 銀座 中俣」は、自社の持つ強みを最大限に活かすことができた好例だと筆者は思う。アイデアだけではなかなか難しいかもしれないが、成功のヒントは街の持つエネルギーや世の中の動向に隠されているはず。「のどぐろ専門 銀座 中俣」のような個性的な魅力のある店の誕生を、これからも楽しみにしたい。
栗原秀輔代表取締役。実は飲食業界の前は野球一筋で、高校~社会人野球の選手として活躍していた。
■のど黒専門 銀座 中俣
住所:東京都中央区銀座4-10-12 銀座サマリアビルB1
TEL. 03-6264-3229
営業時間:17:00~24:00(L.O.23:00)
定休日:日曜日
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