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お店を知る

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2015年10月14日(水)17:10

究極のジビエ「むじな=穴熊」をすき焼きで! クラウドファンディングで安定供給と世間へのアピールに成功した「むじなや」 (東京・渋谷/むじな肉すき焼き専門店)

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取材・執筆 : 石村紀子 2015年9月24日

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 7月17日、渋谷に究極のジビエ「むじな」をすき焼きで食べさせてくれる店が誕生した。その名も「むじなや」。運営するのは宇田川カフェを筆頭に16の飲食店、4つのライブハウスを運営している株式会社エル・ディー・アンド・ケイ(東京都渋谷区 代表取締役 大谷秀政氏)。オープンに先駆けてクラウドファンディングで支援者を募ったことで、感度の高い食通たちへのリーチに成功。また、オープン後1年間は支援者とその同伴者のみの完全会員制にすることで、事前に供給量を把握。一般には流通していない野生の狩猟肉である「むじな肉」の確保と安定供給を実現させた。

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渋谷の裏通りにある「むじなや」。豪快な筆文字が目を引く。

 聞きなれないが「むじな」とは「穴熊」のことである。体長40~50cm、タヌキに似た風貌で畑の作物を食い荒らす害獣として知られている。むじなに限らず、日本の山間部では野生の鳥獣による深刻な農作物被害に悩まされているという。九州農政局の調査によると、平成23年度の九州での農作物被害額は実に35億7000万円にものぼる。当然、それらの害獣は駆除の対象となるが、そのための費用は莫大なもので、行政としても非常に頭を悩ませているのだそうだ。

 被害の大半を占める鹿やイノシシなどは、近年ジビエとして知名度も上がり、人気も出てきているため、流通量が増えてきたというが、むじな(穴熊)を始めとする他の肉は前述の2種類に比べ捕獲数が少ない上に、販路がないため一般には流通していないのが現状だ。

 「当店を開くきっかけとなったのは、大分の猟師さんからそうした現状を聞いたことです。地元でもほとんど流通していないので、せっかく獲ったむじなも捨てなければいけないし、処分するにも費用がかかるとのことでした。しかし、その猟師さんによると"むじな肉は、鹿やイノシシより10倍美味い。すき焼きにして食べるのが猟師たちにとって究極のご馳走になっている"とのこと。それならば、都市部でそうした肉を提供する店を作ろう。そうすれば、日本の山間部で起こってる現状を広く知ってもらうきっかけになるし、肉を提供していただく地元の生産者さんにもメリットがある。処分されるはずの肉が生きてくるわけです。生産者、飲食店、消費者の三者にとってよい関係が築けると確信し、めずらしい"むじなのすき焼き専門店"を開くことにしたのです」(株式会社エル・ディー・アンド・ケイ 広報 山田宏樹氏)

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どこか懐かしい雰囲気の店内。おばあちゃんの家に遊びにきたようなほっこりとした気分になれる。席数は1Fが5卓で15名、2Fが5卓で20名。

 しかしむじな(穴熊)は一般的にはまったく知られていないジビエ。どの程度の供給量にしたらよいかも予測できない。そこで活用したのがクラウドファンディングというわけだ。「支援者を募ることで、年間の供給量を把握することができますし、むじなが美味しい肉だということや、山間部で起きている問題について広く知っていただく機会を創出することができます。結果は予想を上回るほどの反響で、目標設定額の4倍弱もの金額が集まりました」(山田氏)

 目標金額150万円に対し、最終金額は561万600円。支援者は441人にも上った。支援者は30代半ばから40代後半が多く、東京近郊在住者が中心だが、なかには鹿児島や大阪在住の人もいたそうだ。ITやTV業界など情報感度が高く、こうした料理が好みであろうシニア層にもきちんとリーチすることができたという。

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入り口扉には「会員制」の文字。

 オープンから1年間は完全会員制で、会員(=支援者)もしくは同伴者のみが入店可能。限られた人だけが行ける特権は、自尊心をくすぐる。それがほとんど食べたことがない食材であった場合にはなお一層のものとなる。

 「話題性があるからと、接待に使ってくださるお客様も多いですね。ほとんどのお客様が出資してよかったとおっしゃってくだっています」(女将 河上絢加氏)。クラウドファンディングの成功には、こうした出資に見合う特別感がいかに作れるかが大切といえるだろう。

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これぞ幻のむじな肉を使った「むじなのすき焼き」!

 メニューは、コースのみ(6480円、税込、ドリンクは飲み放題)。鹿肉のたたきや、猪の味噌煮込みなど、むじな以外のジビエも提供している。メインはもちろん、むじなのすき焼きだ。

 「むじなはとにかく脂が美味しいんです。スイカやとうもろこし、ぶどうなどをよく食べるので、肉の糖度が高いんですね。甘くて、コクがあるのにしつこくない。霜降りの牛肉より美味しいとおっしゃってくださるお客様が多いです。ジンギスカンより柔らかいし、臭みもない。ジビエを食べ慣れていらっしゃる方も、こんな肉は初めてとおっしゃってくださいます」(河上氏)

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脂が乗ったむじな肉は、まるで生ハムのよう。

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むじな同様、大分から直送の鹿肉も旨みが凝縮された味わい。

 むじな肉は、まず「赤酒」で煮てから、すき焼きとして調理する。
 
 「赤酒は熊本のお酒です。褐色でみりんのような甘みがあり、調理酒として売られています。赤酒で煮ると臭みと灰汁をとることができるんです。これは猟師さんに教えていただいた調理法そのまま。猟師さんの食肉体験をそのまま再現しているんですよ」(河上氏)

 また、むじなはジビエ=野生である。個体によって味に差があるというからおもしろい。

 「同じ部位でも個体によって違うんですよ。色も赤かったり、ピンクがかっていたりいろいろです。同じすき焼きでもその日にご提供できるお肉によって味に変化があるのもお愉しみのひとつかもしれません。特にこれから、冬眠前の11月から12月にかけては最も脂がのり、肉の甘みが増す時期です。何度もリピートしてくださっているお客様は、食べるたびに少しずつ脂が乗っていくのがわかるとおっしゃいます。個性的な味こそ、ジビエのおもしろさですね」(河上氏)

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からすみを贅沢に使ったシメのお蕎麦も絶品と評判だ。
 
 「ドリンクも、コンセプトやコース内容に合うようこだわって仕入れています。例えばワインはスペインの「EL COTO」というものをご用意させていただいていますが、これは「狩猟地」という名のワインなんですよ。他、通常は飲み放題に入らないめずらしい焼酎や日本酒の銘酒など、各種取り揃えています」(河上氏)

 「ジビエは一般の方への認知度はまだまだだと感じています。日本の山間部での害獣被害の現状や食文化など、まずは知っていただくことが大切だと考えています。お料理をただ提供するだけでなく、そうした背景を丁寧に説明していきたいと思います。お客様おひとりおひとりの求めていることを敏感に察知し、楽しい時間や価値をご提供できるようになりたいですね。家庭のようにほっこりと安らげる空間にできればと思います」(河上氏)

 「飲食業界ではこれから専門店化が進んでいくだろうと、弊社の社長は常に言っています。この店はその最たる例ですね。これからもこの店のようにエッジの効いた個性的な店作りに力を入れていきたいと考えています」(山田氏)

 聞けば聞くほど、食べてみたくなるむじな肉。2年目以降は第二次会員募集なども視野に入れつつ考えているというが、詳細は未定とのこと。幻の肉を食べるには、会員を探して連れて行ってもらうしかないが、粘って探してでも行く価値のある店だ。

■むじなや
住所:東京都渋谷区某所(非公開)
TEL:非公開
*完全会員制。会員証を持っている人のみ予約可能


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