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フードリンクレポート

フードリンクレポート

2016年6月01日(水)12:00

「九州熱中屋」に訊いた。餃子で稼ぐ居酒屋チェーンの秘密。

餃子ブームを大解剖!ギョーザの過去・現在・そして未来。

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2016年5月30日執筆

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 今年に入って、餃子に関するテレビの情報番組、出版が急に目立つようになった。餃子をメインに打ち出した居酒屋、カフェやバルのような店舗で女性客を狙う専門店が増加し、ご当地餃子のイベントも大盛況である。餃子を食べて痩せる「餃子ダイエット」が提唱されるなど、従来の男のスタミナ食といったイメージが払拭されてきている。餃子はどこまで進化するのか。ブームを超えて定着していくのか、取材した。(5回シリーズ)

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九州熱中屋はサバと餃子の旨い店をうたう。餃子は顧客の7割が注文する主力商品だ(品川シーズンテラスLIVE)。

 餃子女子が増えて、女性を狙った餃子専門店ばかりが増えているが、こんな時だからこそ男の餃子をさらに究めようという考え方もあっていいはずだ。冷静に見ると従来から市場が確立されている、男のスタミナ料理としての餃子の方が、集客が安定していて、流行に左右されることが少なく、過当競争に巻き込まれにくいからだ。

 ゴールデンマジックが展開する、九州料理居酒屋「九州熱中屋」は、"サバと餃子の旨い店"をモットーに表の看板にも明記し、サバとともに餃子を名物料理として売ってきた。特に餃子は顧客の7割、ピーク時はほぼ100%が注文するマストなメニューとなっている。なお、サバは生簀に泳いでいる数が出れば終了なので、21時頃に売り切れてしまうことが多く、顧客の5割弱が注文していることになる。

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九州熱中屋の博多一口鉄板餃子。

 顧客層の男女比は7:3で男性が多い。山本勇太社長によれば「働くお父さんの1ヶ月に1度のごほうびとして来てほしいお店です。いつもは週に1、2回、1500円の予算で立ち飲みなどで済ませていても、おいしい料理が揃っていますから、ちょっと高くてもお金の余裕のある時に寄ってほしい」という思いで経営している。顧客単価は3800円ほどとなっている。

 「九州熱中屋」は、ダイヤモンドダイニング全額出資の子会社として2009年に設立されたゴールデンマジックの主力業態で、2010年7月に1号店をオープンして以来、現在までに首都圏と関西で78店を経営している。餃子を主力とするチェーンでは、近年最も伸びた店の1つだ。

 昨春は関西に初進出し、2ヶ月ほどの間に一挙13店をオープンするなど、昨年1年間で30店も店舗数が増加した。今年はやや抑えめに10店の新規オープンを目指している。居抜きの物件を中心に、スケルトンからつくる場合も、1年半で回収できる計画で出店。現状は既存店の売上高も利益も対昨年比で100%を超えているというから好調である。

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一口というより二口くらいの大きさがある。

 「九州熱中屋」のコンセプトは、"九州の活気溢れる繁盛店を東京に再現"であるが、九州の旨いものがあれこれ揃うイメージだったのを、一昨年秋あたりから"サバと餃子の旨い店"と看板や暖簾の文言に掲げるようになった。もともと、大分県豊後水道から取り寄せているサバと、博多一口鉄板餃子は、同社としても自信を持って提供してきたメニュー。

 同社では、九州料理が何でも旨いという焦点がぼやけた総合居酒屋的な打ち出しより、サバと餃子に特化したほうが、わかりやすく、口コミもしやすく、集客に有利と判断した。実際に専門性を高めることで結果が出て、店舗数の急増に寄与している。

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博多一口鉄板餃子の調理風景。

 さて、博多一口鉄板餃子と銘打って提供されている「九州熱中屋」の餃子であるが、実際は2口サイズくらいある。餃子は全て店内で手づくり。皮は仕入れてくるが、店のスタッフが餡をつくり、餡を皮で巻く。福岡の人から見れば大きすぎるが、2口サイズくらいの方が握りやすく、口に入った時のサイズ感が良くて、商品のバランスも取れているから、今の大きさになっている。

 調理も、餃子を鉄板に並べて大量のサラダ油で強火で揚げた後に、オーブンで焼く。焼くのにオーブンを使う餃子は非常に珍しい。この独特な揚げ焼きにより、カリッとした焼き上げ感がありながらモチモチ感もある、餃子に仕上がる。値段は13個入り1000円。

 山本社長によると絶え間ない改良により、餃子のレシピは10回以上変わっているという。皮、焼き方、肉やキャベツの粉砕の仕方、どの工程も見直しの対象になり得る。キャベツ一つを取っても、甘味を出すため粉砕してから冷凍にしてみたり、漬物にして絞ってみたりと、さまざまな方法を試している。

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調理にオーブンを使う餃子は極めて珍しい。

 肉は国産で、一度挽きと二度挽きの挽き肉を両方使い、腕肉と混ぜ豚軟骨と鶏軟骨を粉砕して入れて、ジューシーでねっとりとした食感、ボリューム感、歯ごたえを表現。野菜は、ニンニクを効かせ、キャベツとニラで、パンチ力ある餃子となっている。しかし、このレシピもいずれ改良されて廃棄されるだろう。皮は羽根付きにこだわった時もあったが、羽根のために水を多く使うとおいしさが損なわれると気づき、取り止めた。

 餃子とサバに関しては、社員のモチベーションを高めるために、社内で3ヶ月に1度餃子検定、サバ検定を実施。

 餃子検定は10級から師範まで20段階の等級があり、握るスピード、握った後の餃子の重さ、ヒダの数が8個できているか、見た目のきれいさ、焼き方・焼き色及び焼く時の音を、それぞれ点数化し、毎回ランキングを発表している。ちなみにサバ検定では、モノサシで切り身の大きさを測るところまでやる。ゲーム性、競争性がある。

 外国人も参加する。前々回はミャンマー人アルバイトが1位になり、サンバ隊が胴上げと、ドラマチックに表彰した。

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ゴールデンマジック、山本勇太社長。

 レシピを覚える方法として、仕込みと焼きの動画を作成。スタッフなら専用サイトにアクセスしていつでも閲覧できるようになっている。外国人のため、中国語とミャンマー語のマニュアルも揃えた。また、山本社長は雇用の際には、必ず1時間をかけてなぜ餃子は手づくりなのか、オリエンテーションを開いて、レシピを守る大切さを説明。辞めた時に餃子を握れる技術を習得されていれば、手に職が付いたことになり、独立のチャンスにもなると、誠意を持って丁寧に説くのだそうだ。

 餃子の仕込みはオープン前に行い、余ったら当日廃棄がルール。今では早い人は、2分で餃子13個を握る。平均でも3分弱。なので、ピーク時以外は、顧客からオーダーを受けてから餃子を握って、焼く店もある。この方が、皮に餡の水分が染みていないので、カリッとした焼き上がり感が鮮明になる。

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九州熱中屋 品川シーズンテラスLIVEの店内。

 常に改善が進む「九州熱中屋」の餃子。家庭では出せない味にこだわっており、衛生面にも配慮して、持ち帰りは受け付けていない。ここもユニークだ。

 「そのうち、全ての餃子を、注文を受けてから握って出すようになるかもしれません」と山本社長。実際にはオペレーションの問題もあり、餃子のみで回している店でないので難しいだろうが、社員の技術とモチベーションがそれだけ上がってきたということだ。

 外食の常で類似業態も登場しているが、餃子のクオリティまで似せるには程遠いようである。

 餃子専門店以上にこだわった「九州熱中屋」の餃子は、どこまで進化するのだろうか。

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九州熱中屋ではサバが水槽で泳いでいる。他の魚は泳いでいない。

 最後に、餃子の今後について若干の見通しを述べてみたい。

 課題として、昨今流行っているニンニク抜き、時にはニラも抜いた餃子は、確かに臭いを気にする女性、仕事中のビジネスマンに強くアピールしている。しかし、レシピにたいへんなこだわりがなければ、パンチに欠け物足りなく思う人も多いだろう。

 そこで、ニンニクありとニンニクなしの餃子を、顧客に選択させる方式を取る店が出てきた。高知から進出した恵比寿「えびすの安兵衛」、高円寺「丸山餃子製作所」、新橋の大阪から進出した「スタンドシャン食」などがこのニンニクの有無・選択方式を採用している。両方を食べ比べる人も多いので、顧客単価は上がると思われ、いずれも成功している。大手では、「餃子の王将」が関西の店舗でこの選択制の実験を始めており、近く全国に広げる見通し。

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「ダンダダン酒場」の餃子アイス。

 次の課題にデザート餃子。「ダンダダン酒場」の餃子アイスは揚げてソフトなせんべい状になった皮に、アイスクリームを付けて食べるもので、感覚的にはアイスクリームの天ぷらに似ている。シンプルだが意外性があり、実食した人は概ね満足しているようだ。

 全体の傾向としては、揚餃子でパイのようにすることが多く、恵比寿「七福餃子楼」の「アップルパイ餃子」、恵比寿「花林糖餃子」の「バナナチョコ餃子 バニラアイス添え」、三軒茶屋「ギョーザシャック」のバナナとクリームチーズ入り「ドルチー餃子」などがあるが、実際に食べた人からはかなり辛辣な意見が聞かれるのも事実。なかなかうまくいかない。デザート餃子で当てれば、一目置かれるかも知れない。

 餃子は見た目の形状と色がほぼ同じで、ビジュアル的に見栄えがしない商品である。インスタグラム、フェイスブック、ツイッターなどのSNSやブログにアップしても、そんなに面白くない。雑誌の特集にしても然り。従って、女性人気がどこまで続くか疑問視する向きもある。

 そこは、スープや鍋にしてしまう、トッピングやタレ、ソースのバリエーションで彩を出すなどの工夫で克服できると、楽観視する人もいる。しかし、よほど女性の集客に自信があり2年くらいで回収できる見通しが立てば別だが、男性サラリーマン、学生、ファミリーをターゲットにした方が成功しやすいのではないだろうか。

 ダイエットに効くかどうかのアナウンス効果は、また別の痩せる食材が新しく登場してくるので、中長期的には当てにならない。

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人気餃子専門店の一角、恵比寿「七福餃子楼」。味噌ダレが特徴。最近はタレにこだわる店も増えている。味噌ダレは特に広がっている印象がある。

 また、餃子はたとえ工場でつくって均一の状態で店舗に納入されても、焼き方ひとつで全く違った味になってしまう。餃子ごとき誰でもできると安易に繁盛店を真似して参入した業者は、味が維持できなくて全て淘汰されるだろう。ましてや手づくりなど、よほどの覚悟で始めて技術を習得し、かつパート、アルバイトを含めた従業員をうまく働かせる経営手腕がなければ、続くわけがない。

 振興策としては、ご当地餃子が流行っているということもあるが、東京や大阪の餃子専門店も集まって合同イベントを打った方がいいという意見も業界内で聞かれる。ラーメンにもそのようなイベントがある。池袋サンシャインシティの「ナンジャ餃子スタジアム」のような、餃子専門店を集めた商業施設が新しく提案されてもいいのではないだろうか。

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代々木「でっかい餃子 曽さんの店」。小籠包のような肉汁が飛び出す"生きてる餃子"が特徴。

 小籠包のような肉汁が飛び出す餃子の存在が、初めてクローズアップされたのは、代々木にある「でっかい餃子 曽さんの店」が、雑誌『おとなの週末』2008年8月号で餃子ランキング1位になった頃から。当時は熱い肉汁が飛び出る焼き小籠包が、ブームになっていた背景がある。

 「曽さんの店」が行列店となると、台湾発祥の皮の分厚いビッグサイズの餃子ではなく、日本の流儀でというわけで、皮を薄めに、サイズを小さく食べやすく、肉汁の出方も程良くと改良されてきた。

 「肉汁餃子」を売る店と名乗ったのは、「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」が2011年1月、調布にオープンしたのが初で、餃子をメインにビールを楽しむ、中華業態ではない大衆餃子酒場が誕生した。中華とは切り離された、和食として主役を張れる餃子と、餃子居酒屋が確立したと言っても良いだろう。

 同店は「餃子とビールは文化です。」というスローガンを掲げて京王線沿線から中央線沿線へ、さらには首都圏広域にチェーン展開しつつあるが、餃子をメインにビールを飲む文化と、その業態である餃子大衆居酒屋が浸透してきている感がある。「ダンダダン酒場」は東京都心部の山手線内側では、まだ2015年8月に高田馬場に進出して以来、池袋に2店、牛込神楽坂に1店と計4店しかない。開拓する余地は十分ある。微妙に、中にはあからさまに模倣した店も各所に生まれている。今の勢いなら、餃子をメインにビールを飲む文化は、これからさらに広まっていくものと思われる。

 また、餃子をちょい飲みに使う文化も、「日高屋」を中心に、「餃子の王将」、「大阪王将」、「ぎょうざの満洲」、「バーミヤン」などの低価格中華チェーン店で、定着していくだろう。

 一方、山手線の内側では、餃子でワイン、シャンパンを打ち出す店が多いが、定着するか。

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餃子とビールは文化になったのが、今回の餃子ブームの成果ではないだろうか(ダンダダン酒場にて)。

 ビールはここに来て「プレミアムモルツ」のような、少し贅沢なビールが売れてきている。それに対して、渋谷、恵比寿あたりの先端的な店ではワインより日本酒という傾向が出ているので、餃子とワインのマリアージュは特定の店の定番にはなり得ても、文化にまでなるかは微妙。むしろ日本酒の方が期待できる感がある。

 ワイン、シャンパンと餃子のマリアージュを狙うなら、店の立地は、渋谷や恵比寿より、サラリーマン向けの立ち飲みワイン酒場が盛んな新橋や東銀座の方がいいかもしれない。

 今まで、日本では普及していなかった水餃子は、スープ餃子の目黒「ダンプリン」、ハトムギを皮に練り込んだ健康志向の餃子を出す「按田餃子」によって、視界が開けてきた。成長性ある分野と言えるだろう。

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スタンドシャン食Tokyo新橋虎ノ門。大阪の北新地から進出して5月9日オープン。シャンパンを餃子で気軽に楽しむ立ち飲みの店。ニンニクの有無を選べる。

 海外での和食ブームは餃子にも恩恵をもたらすに違いない。

 「ダンダダン酒場」の下北沢や池袋の店、目黒「ダンプリン」などには、外国人の顧客も目立つそうなので、世界に向けて日本の餃子をアピールしていけるのではないだろうか。原宿の「原宿餃子楼」には、外国人が連日行列に並ぶほどだ。
既にパリには餃子バーの繁盛店が存在するが、やがてニューヨークに餃子専門店が林立する可能性もある。

 餃子の未来には期待と不安が入り混じるが、餃子をメインにしてビールを飲む、餃子大衆居酒屋はまだ展開が始まったばかり。これから普及期に入っていくだろう。ただし「安兵衛」が主張している高知の屋台文化、餃子をはしご酒のシメに、ラーメン、そば、うどん、茶漬けの代わりに使うのは、一般化するのが難しいかもしれない。

 餃子とワインのマリアージュは、ワイン酒場の差別化には使えるが、ワインブームのピークが過ぎているので気がかりだ。水餃子、スープ餃子は、健康志向の顧客に訴えて、駅ビル、駅ナカで成功するようなら面白い。一気に市場を獲得するかもしれない。女性を顧客に狙うならむしろ、焼餃子よりは水餃子といった見方もある。

 いずれにしても、餃子ビジネスはどう展開していくのか。ラーメンブームに匹敵する餃子ブームがこのまま十年、二十年と続くのか、これからの展開が楽しみだ。






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