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2015年6月22日(月)17:59 トレンド

モスバーガーとリンガーハットは、安全・安心な商品とマーケットインの開発力で好調を維持。

デフレを脱却、好調な外食低価格業態は何を変革したか!(5-4)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年6月21日執筆

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 日本経済が長らく停滞しデフレに苦しんできた中で、数少ない勝ち組として君臨してきた低価格の外食業態が、アベノミクスによってデフレ脱却、景気浮揚がはかられる中で、業績を落とす傾向が見られる。株価上昇による資産効果が出ている高価格業態はともかく、生活に密着したデイリーユースの低価格業態ほど、昨年4月の消費増税によって消費マインドが落ち込み、消費対象のセレクトが厳しくなったこともあって、どういった施策を打てばいいのか、非常に難しい経営の舵取りが必要な状況にある。2017年に再びやってくる消費税率10%アップに向けて、困難はしばらく続くだろう。しかし、そうした中にも、消費者のニーズを的確にとらえて、新しい時代の風をとらえて成長軌道に乗る低価格の外食業態もある。そうした、新しいタイプの勝ち組を特集する。(5回シリーズ)

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食の安心・安全志向で順調「モスバーガー」。

 日本フードサービス協会の直近のデータを見ると、洋風ファーストフードの4月の既存店売上高は前年同月比で84.5%とたいへん厳しい。3月80.4%、2月83.8%、1月77.3%であり、今年に入ってから不振を極めているといってもいいだろう。もちろんこれは、「マクドナルド」の連続的な異物混入事件の影響が大きく、売上が大きな「マクドナルド」の不振が、反映されている。

 それに対して、全国に約1400店ある「モスバーガー」の4月の既存店売上高こそ98.1%と前年を割っていたが、直近5月は104.4%と回復。3月100.8%、2月112.1%、1月108.8%と、概ね前年を上回る堅調な売上推移を見せている。

 「食に対して安全・安心を求める人が増えているのを感じますね。お子様向けの1月、2月の出数が1月、2月は前年対比で4割増えましたから。今も2割以上、増えています。洋風ファーストフードも、マクドナルドを除くとそんなに悪くないですよ」と、「モスバーガー」を運営するモスフードサービスの広報では、消費者、特にファミリーの志向が安全・安心を重視する方向に強く動いていると指摘した。

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「モスの朝ライスバーガー朝御膳「彩り野菜のきんぴら 国産野菜使用」」(470円、ドリンクセット610円)。

 強化策としては、2014年4月から10時半までのモーニング需要喚起のために「おはよう朝モス」と称して、フードコートの店を除いて全店7時からのオープンとした。「モスバーガー」ではここ何年かでモーニングメニューを強化して、どれだけのニーズがあるのか探ってきたが、メニューを見直し専用メニューでの全面展開を始めた。

 5月19日からは、「モスのモーニングバーガー」3種(B.L.T、ベーコンエッグチーズ、ハムカツ)、「モスの朝ライスバーガー朝御膳「彩り野菜のきんぴら 国産野菜使用」」、「ライ麦パンとスープのセット」を新規投入している。従来から販売していた「モスの朝ライスバーガー朝御膳「たまご 黄身醤油ソース」を「モスの朝ライスバーガー朝御膳「たまご 旨だし醤油ソース」」にリニューアル。トースト、ミニサラダ、たまご焼きが付いた「モーニングプレート セットドリンク付」も、粗挽きポークのソーセージからベーコンに具材変更するなど仕様変更した。トーストとドリンクのセットも継続しており、このセットの330円が最安値となっている。

 「モスのモーニングバーガー」はこだわりの生野菜を使用し、シンプルな味付けで食べやすさを重視した軽めのメニュー。「モスの朝ライスバーガー朝御膳」は、あっさりした具だくさんの豚汁としば漬けをセットにしており、きんぴら、卵かけご飯といった和を意識した商品である。3月19日からは、「ソイパティ」の商品を販売。当初、専用の商品だったが約3週間で目標の30万食突破と好調だったため、他の商品にも広げ、5月19日より「モスバーガー」など8商品で選べるようになっている。ソイパティは大豆由来の植物性たんぱくを使用し、たまねぎ、セロリ、マッシュルーム、レンズ豆、ひよこ豆などを混ぜ合わせて、肉のような食感を実現。通常パティより約50キロカロリー低く、肉の苦手な人や健康を意識した人を対象とした商品である。

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ソイパティのモスバーガー。見た目も食感も肉を使ったものとほとんど変わらない。値段も同じ。

 また、5月19日からは、具材をバンズではなくたっぷりのレタスで挟んだ「菜摘バーガー」の販売を開始。レタスでバンズを挟んだハンバーガーは、5年ほど休止していたが、このたび顧客からの要望によって復活となった。9月まで夏シーズンのメニューとなる。「メニュー表で、ソイパティ、菜摘を選べるように表示しているのですが、認知度はまだまだですね。一度経験していただくとリピート率は高いのですが」とモスフードサービス・広報では、宣伝不足の面があると言っているが、期待の商品であることは間違いない。

 年内にコーヒーも見直す方向で動いており、商品の強化を進めている。同社では、櫻田厚社長が全国を回って店舗利用者の声を聴くタウンミーティングを、2011年から行っており、今年9月で47都道府県を一周する。ホテルの部屋を借り切って実施しているが、そうした中で、肉なしのハンバーガー商品化、菜摘バーガーの復活といったアイデアが寄せられ、具現化している。つまりマーケットインの考え方によって、好調を維持しているのだ。元々、同社は契約農場を組織化して安全・安心な野菜を提供しているイメージがある。消費者の声によって、そのイメージを活かした商品のブラッシュアップにつながっているというわけだ。

 ただし、消費者の要望を全部受け入れていくと、ドライブスルーをしてほしい、料理を数秒で出るくらいに手っ取り早く出してほしいといったことに応えなくてはならない。注文を受けてから丁寧につくる「モスバーガー」のコンセプトに反する。やらなくてもいいマーケットインもある。そのあたりの見極めが現状、うまくいっているということだろう。

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菜摘バーガー。利用者とのタウンミーティングから生まれた商品。値段は通常商品と同じ。

 なお、「モスバーガー」では牛肉など食材の高騰、人件費の上昇など、コスト面の厳しさが増しているため、「モスバーガー」を30円アップの370円とするなど、主力商品を20円~30円、セット物などを含めると最大70円の値上げを行っている。値上げの影響については、「半年くらい経過してみないとわからない。「匠味」によって「モスは高い」というイメージが付いてしまったので、最初は好調だったが、結果的にチェーン全体の売上不振を招いてしまった苦い経験がある。情勢を見極めていきたい」(モスフードサービス・広報)としている。

 高級ハンバーガー「匠味」シリーズは1個610~1000円の価格で、2005年度に160万食を販売したが、作業に手間がかかるため、オペレーションが混乱。提供時間が15~20分とファーストフードにしてはかかり過ぎるようになってしまい、ちょうど日本経済のデフレが悪化するタイミングに重なって、会社の業績を落とす原因にもなってしまった。現在は景気が回復してきて、値段に見合った品質ならば消費者は購入するようにトレンドは変わっている。「匠味」を出すならむしろ今だという感はあるが、現場の負担を軽減する周到な準備が必要だろう。

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リンガーハット店内。ぎょうざにまで国産野菜・小麦粉使用していることををアピール。

 安全・安心な国産野菜と、適切なマーケットインの商品改良の取り組みで好調と言えば、もう1社、リンガーハットを挙げておきたい。同社の平成27年2月期決算(連結)によれば、売上高381億5500万円(前年比3.9%増)は過去最高。既存店売上高も、前年比101.8%(系列の「とんかつ浜勝」などを含む)と堅調に推移しており、経常利益も22億1100万円(同32.3%増)となった。「リンガーハット」の店舗数は25店増えて570店となっている。

 「リンガーハット」は「長崎ちゃんぽん」、「長崎皿うどん」という長崎の郷土料理を、唯一全国チェーン化したユニークな業態であるが、2000年代半にはデフレが深刻化する日本経済の下で調子を崩し、2004年2月期から09年2月期までの6年間に4回もの赤字を計上するといった、不振に陥っていた。しかし、浮上の切っ掛けとして、08年に3年ぶりに社長に復帰した米浜和英氏(同社会長兼社長)は、全店で使用する野菜を国産化すると宣言。09年10月1日から餃子の具に使う野菜にいたるまで、全ての野菜を国産化している。

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野菜たっぷりちゃんぽんは7種の国産野菜を480グラム使用。

 このアイデアは、米浜氏が日本フードサービス協会の会長を務めていた際に行った産地見学会で、新鮮な国産野菜のおいしさに気づき、ぜひ広めたいと考えたことにある。米浜氏は日本の農業再生、自給率向上のために、生産者と外食産業は協力し合うべきというのが持論。輸入の冷凍野菜から国産に食材調達を変えるに従って、調理法も見直して生野菜のシャキシャキした食感を残すとともに、以前のちゃんぽんに比べて塩分を10%落としている。

 そして新商品として、成人が1日に必要とする野菜摂取量350グラムを上回る、480グラムもの野菜が入った「野菜たっぷりちゃんぽん」、367グラムを使用した「野菜たっぷり皿うどん」を商品化。特に「野菜たっぷりちゃんぽん」においては、麺よりも野菜が目立つ、二郎系ラーメンの野菜タワーをほうふつさせるような、ボリューム感あるメニューとなっている。これがヘルシーメニューとして、ビジネスマンに人気を呼んでいる。食の安全・安心と健康への志向に応えた商品と認知されて、以前は来なかった女性の顧客も目につくようになり、今ではおひとり様の来店も珍しくない。

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野菜たっぷりメニューに合う、ドレッシング(生姜、柚子こしょうの2種)。

 野菜たっぷりメニューに合う、ドレッシング(生姜、柚子こしょうの2種)も開発し、これをかけるとさっぱりとしたした味に変化し、サラダ感覚でサラサラと食が進む。創業からの主力商品「長崎ちゃんぽん」に入る野菜の量も、230グラムから250グラムに増量した。

 毎月2日間、「野菜の日」を設定し、特別なセットメニューを提供するほど、国産野菜に力を注いでいる。産地は季節によって変えており、天候不順で供給不足にならないように全国に契約農家を分散。野菜の栽培段階からかかわり、農薬や化学肥料を減らした、栄養価に富む高品質の野菜づくりに熱心な農家を開拓中だ。また、麺などに使う小麦粉も6年間かけて国産化。翌2010年1月12日より、チェーン全店に導入済みである。

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野菜をふんだんに使った夏メニュー「冷やしちゃんぽん 白」(590円)。全粒粉ブレンド麺使用。

 昨年からは、野菜をふんだんに使った夏メニュー「冷やしちゃんぽん」を、新たに投入している。さらには、店頭で麺を抜いた野菜だけのちゃんぽんを注文する人がかなりいることから、顧客の要望に応えて、「野菜たっぷり食べるスープ」を今年4月10日より発売している。

 コスト面に関しても、リンガーハットは佐賀の工場に調理器具を開発する部署を持っており、従業員の熟練度が高くなくても、野菜炒めなどを一定の品質で提供できる機械を開発するなどして、合理化に鋭意取り組んでいる。こういった努力も見逃せない。
 
 「モスバーガー」や「リンガーハット」の取り組みを見ていると、「外食ばかりしていると栄養が偏る、太る、野菜不足になる」と言われてきた時代は、過去のものとなりつつあると実感する。「外食ばかりしているから、栄養バランスが良くなって健康になった」と言われるような時代が迫っている。しかも、この両者は農家としっかりタッグを組み、日本の農業活性化をも視野に入れた企業姿勢が消費者の評価を得るとともに、消費者からの要望で商品がさらにブラッシュアップされていくという好循環をつくりだしている。

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