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フードリンクレポート

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2015年5月26日(火)10:38

有名で類例ない看板に似せると違法。「かに道楽」は他店の動くかに看板の使用を止めさせた。

パクリのボーダーライン。繁盛店の知的財産はどこまで守られるか。(5-5)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年5月24日執筆

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 フードリンクニュースによる、「鳥貴族」に極めて酷似した「鳥二郎」の仁義なきパクリ疑惑報道(2014年12月11日付)は大きな反響を呼び、「鳥貴族」が「鳥二郎」を不正競争防止法違反で訴える訴訟にまで発展。各種メディアでも独自取材により報道合戦が繰り広げられ、情報が拡散されて、「いくらなんでも、ここまで似るとはあり得ない」という驚きの声が読者、視聴者の間で広まっている。新業態、新商品、新サービスが生まれ、それがヒットすると真似る行為は古今東西で行われてきているが、似ていることはどこまで許されるのか。過去の模造業態を振り返るとともに、不正競争防止法のポイントに踏み込んでみた。(5回シリーズ)

パクリのボーダーライン。繁盛店の知的財産はどこまで守られるか。(5-1)

パクリのボーダーライン。繁盛店の知的財産はどこまで守られるか。(5-2)

パクリのボーダーライン。繁盛店の知的財産はどこまで守られるか。(5-3)

パクリのボーダーライン。繁盛店の知的財産はどこまで守られるか。(5-4)

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例を見ない奇抜性、新規性を有するという理由で「かに道楽」の動くかにの看板は他店では使えないという、不正競争防止法に基づく判決が確定し、他店の同様な看板使用を止めさせた。

 商標法に基づいて商標登録を行っていても、外観、内装、料理、メニュー表、店服、店のモットーまでもが酷似していた場合に、似せてきた相手の現状を変更しないまま営業を止めさせることができるのだろうか。この場合には、不正競争防止法に基づく訴えができる。損害賠償も請求できる。

 焼鳥チェーン「鳥貴族」を運営する鳥貴族が、同じく焼鳥チェーン「鳥二郎」を運営する秀インターワンを訴えたケースがこれだ。損害賠償までは求めてもいないが、ラーメンチェーン「丸源ラーメン」を運営する物語コーポレーションが、ラーメン店「にく次郎」を運営する秀インターワンに仮処分を申し立てたケースもこれにあたる。つまり、秀インターワンは、鳥貴族、物語コーポレーションの2社から、それぞれ焼鳥、ラーメンの業態で、不正競争防止法違反で法的措置を受けているのである。

 商標法・意匠法・不正競争防止法などに詳しい、藤森裕司弁理士によれば、「不正競争防止法の場合は、特許庁に関係なく商標登録があるかないかではなく、有名な商品等表示であるかどうかが問われます。自由競争とのバランスがあるので、事実状態として保護に値するほど表示自体に信用があるかどうか。有名であるかどうかが重要です」と語る。

 「商標は文字、図形のみが対象で、屋号や店名を直接的に保護します。ある意味漠然とした、看板そのものとかは、不正競争防止法で裁判所が有名な商品等表示に該当するか、判断します。権利が明確でないと言えますね」(藤森裕司弁理士)。
つまり「鳥貴族」と「鳥二郎」、「丸源ラーメン」と「にく次郎」が商標登録をしているかどうかは置いといて、原告側の「鳥貴族」や「丸源ラーメン」が裁判所によって、有名と認定されるかがポイントなのである。

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「かに将軍」。「かに道楽」の訴えにより、かにの看板を動かすことができなくなった。

 有名かどうかは「周知性」という言葉が使われるが、知的財産法の権威である大阪大学大学院高等司法研究所法務専攻教授・茶園成樹氏編の『不正競争防止法』(2015年4月10日初版第1刷発行、有斐閣)によれば、「周知性は全国的に認められる必要はなく、一地方において広く認識されるものであれば足りる」(『不正競争防止法』25ページ)とある。

 では、「鳥貴族」がどの程度有名かというと、関西一円、特に京阪神で知らない人はまずいない。知らない人は関西人でないというほど、エリア内での周知性は抜群である。「鳥二郎」の店舗は全て「鳥貴族」と同じビルまたはごく近所にあるので、全店舗に「鳥貴族」の周知性は及んでいる。
 
 「丸源ラーメン」はというと、「にく次郎」の所在地より半径25km以内に6店、兵庫県と大阪府のロードサイドだけで18店が営業。TVでCMも打っている。つまり、エリアでの周知性が高く、有名と言えるだろう。「にく次郎」は兵庫県西宮市にあるが、「丸源ラーメン」は一番近くて隣の兵庫県尼崎市にある。過去には、横浜市内のとんかつ「勝烈庵」が、神奈川県鎌倉市大船の「かつれつ庵」に対して表示差し止めが認められたケースがある(横浜地方裁判所昭和58年12月9日)。横浜と大船で認められるのなら、西宮と尼崎では認められるのではないだろうか。

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横浜の「勝烈庵」は大船の「かつれつ庵」の屋号使用を差し止める訴えが認められた。地域内で有名ならば周知性が認められ、不正競争防止法が成立する可能性が高い。

 また、混同に関しては「区別すべきものを同一のものと間違えること」(同書30ページ)であるが、「一般的には、表示の周知度、表示間の類似性、商品・営業間の類似性が高くなれば、混同が生じやすくなる」(同書29~30ページ)。また、「混同要件が満たされるためには、現実に混同が生じていることは必要ではなく、混同のおそれがあれば足りる」(同書30ページ)。

 つまり、有名店にどこまで似ているかで判断され、実際に間違うかどうかは関係ないのである。有名な洋菓子の「コトブキ」が、観光土産の和菓子の「京都コトブキ」を、混同のおそれがあると訴えて、表示差し止めが認められたケースがある(平成10年1月30日大阪高等裁判所)。

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アメリカのトレード・ドレス成立例。テキサス州のメキシコ料理店同士の争い。上の「タコカバナ」の外装・インテリアに、下の「トゥードレス」が全体感として酷似し、顧客の混同を招くと判決が出ている(1991年)。

 さて、「鳥貴族」と「鳥二郎」、「丸源ラーメン」と「にく次郎」が極めて似ていることは、本特集の1回目と2回目で検証したが、店舗外観、内装、料理、店服などが商品等表示にあたるかどうかは、実は論争がある。

 アメリカでは、「全体感として似ている」問題を「トレード・ドレス」と呼んで、保護の対象としていく動きが進んでいる。知的財産の最も最先端の1つであり、日本では自由競争を守るという観点から、知的財産の専門家の間では消極的な意見も多いのだ。

 ワタミフードサービス「和民」に対してモンテローザ「魚民」、三光マーケティングフーズ「月の雫」に対してモンテローザ「月の宴」が、いずれも実質的なモンテローザの勝訴とも言える和解に持ち込んで、未だ営業していることからも、「最終的に和解の道を探り両者共存になるのではないか」との見方も多い。実は、藤森弁理士もこの見解だ。

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極めて著名な「鳥貴族」の看板。280円均一でじゃんぼ焼鳥でイラスト風の鳥の文字ならもう「鳥貴族」しかないほどの知名度。

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「鳥二郎」看板。系列店に見える。

 「権利が明確でない文字ではないものを、有名な商品等表示だと裁判所に判断してもらうためには2つの要件が必要です。1つは表示そのものに独自的特徴があるか。もう1つは使用の継続によって美観、デザインの領域を超えてブランドとして認識するレベルになっているかです。これは非常にハードルが高い。しかも、原告側が立証しなければなりません。」(藤森弁理士)。

 これが認められ、不正競争防止法違反になった例としては、「かに将軍」が動く大きなかにの看板を掲げて営業し、「かに道楽」に訴えられた事件がある(昭和62年5月27日大阪地方裁判所)。

 「かに将軍」は、動くかに看板は何の独創性もなく、かに料理専門店一般を表示するに過ぎないと主張。しかし、大阪地方裁判所では「かに道楽の例を見ない奇抜性、新規性を有することは明らか。このような看板は現在でもかに料理専門店で一般的に使われているものでない」とした。よって「かに将軍」の動く看板は差し止められ、以降動かなくなった。

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人気ラーメンチェーン「丸源ラーメン」と言えば水彩画風のラーメンイラストの看板と熟成醤油、肉そば。他に類例があるだろうか。

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「にく次郎」看板。系列店に見える。

 看板だけで考えても、「鳥貴族」の赤と黄色の配色の看板は、焼鳥屋としては一般的でない。焼鳥屋は一般のイメージとして路面にあって赤提灯がぶら下がっているものであり、全品280円均一も、それ自体焼鳥屋としては珍しく、一般に1本100~200円程度で販売する焼鳥としては高く、1杯350円~600円程度を取る飲み物としては安く、異例の価格設定である。しかも、ビッグサイズの焼鳥を「じゃんぼ焼鳥」と表示してメイン表品として売り出すチェーンは他になかった。「鳥○○」と漢字3文字で、鳥の字が象形文字風、赤と黄色を使った看板で、ビルの空中階にあり、じゃんぼ焼鳥が売り、全品280円均一が同時に情報として目に飛び込んできたならば、「鳥貴族」の周知性が高い地域では、ほぼ全員が「鳥貴族」だと認識すると断言できるのである。

 「丸源ラーメン」はどうか。格子状の外観に関してはFC店においてはその形状をしていないケースもあるが、水彩画でラーメンを描いた看板自体が独創的で、一目で「丸源ラーメン」と認識できるものである。そこに他店では食べることができない「熟成醤油肉そば」ののぼりと、「熟成醤油」が烙印になっている形状があり、ロードサイドで大きな駐車場があるとなると、もう「丸源ラーメン」の周知性が高い地域では、店名が異なろうが、「丸源ラーメン」の系列と勘違いして入ってしまう危険性が高いのである。

 いずれにしても、秀インターワンは、焼鳥、ラーメンの店舗、商品の中ではたいへん真似しにくい有名なものに敢えて酷似したブランドを展開しており、通常成立しにくいトレード・ドレスの不正競争防止法違反であっても、「かに道楽」に訴えられた「かに将軍」と同様に、「パクってない」ことを立証するのは難しいと思われる。

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秀インターワン「にく次郎」は、リニューアル前は「五右衛門」という店名だった。この「五右衛門」からして、「来来亭」というチェーンに見た目外観は酷似していた。

 一方で、トレード・ドレスを巡って争われた、唯一の本格的な訴訟とされる「めしや食堂」事件では、不正競争防止法違反で訴えたフジオフードサービス「まいどおおきに食堂」の表示差し止め請求は控訴棄却されている(大阪高等裁判所平成19年12月4日)。
「まいどおおきに食堂」の店舗と、被告ライフフーズ「めしや食堂」の店舗の店舗看板、ポール看板、メニュー表、商品の陳列方法、店舗の配色など個々の構成要素を検討した結果、全体として類似性はないと判断されている(大阪地方裁判所平成19年7月3日)。

 経済産業省知的財産政策室では、「看板、内装、ユニホームなどが普通に食事に来るお客様が間違うおそれがあるかの判断は、個々のケースによります。特徴的なものに対してどのくらい似ているのか。悪意を持ってわざと似せてつくったのか。1つの判例をもって否定されたことにはなりません」と話している。

 「鳥貴族」、「丸源ラーメン」の訴えが裁判所によって退けられるとなるとこれは大問題である。それというのも、店名の商標を取って、あとはいくら丸パクリしてもいいということになりかねず、開発者の思いも、開発のためにかけた費用も時間も、無駄になってしまう。しかし、これまでTTP(徹底的にパクる)を手法としてきた外食企業にも、将来的なトレード・ドレスの成立を見据えて変化が起きていると思われる。

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ダイヤモンドダイニングでかつて展開していた「竹取百物語」。

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川中商事「竹取御殿」。"竹取シリーズ"に熱心で個室和風居酒屋の柱となっている。本家のダイヤモンドダイニングの店がなくなって困り果てている? 

 三光マーケティングフーズ「月の雫」を元祖とする「月の~」と表示する店名の"月のシリーズ"の居酒屋が一段落した後で、ダイヤモンドダイニングが2004年に銀座にオープンした「竹取百物語」を元祖とする「竹取~」と表示する"竹取シリーズ"の居酒屋が流行ったことがあった。

 これを最も激しく行ったのは、川中商事で、「竹取御殿」、「竹取桜めぐり」、「竹取の音色」、「竹取の楽宴」、「竹取の庭~遊庵」などといったブランドがある。ちなみにモンテローザにも、「竹取酒物語」という、これまた紛らわしい店がある。現在は本家「竹取百物語」は撤退してしまったので、模造店ばかりが残っているという状況になっている。

 川中商事の"仁義なきパクリ!?"ぶりは、「竹取百物語」の料理写真をそのままコピーして使ったメニューで営業していたほどだと言われている。モンテローザ、秀インターワンと並んで「TTP御三家」の一角をなしている。川中商事には、アントレスト「さくらさく」と紛らわしい「さくらさくら」、リンクルー「かまくら」と紛らわしい「かまくら御殿」などといった店もある。
 
 この会社は大阪に本社があり、2006年の設立。全国で約380店もの店舗数を持ち、年間40店というハイペースで成長しているそうだが、求人サイトに広告を打っているものの自社ホームページがなく、メディアに登場しないので実態がわからない不思議な会社だ。海外にも進出していて、もっぱらビルの空中階で和風個室居酒屋をつくっているが、食中毒が頻発するなど、社内体制に問題があるのではないかと噂される会社だ。

 しかし、その川中商事では、最近はTTP路線からの転換をはかっているようで、三代目若乃花氏プロデュース「若の台所」や「赤鶏御殿」、オリエンタルラジオ・藤森慎吾氏プロデュース「寿司よろしくでぇ~す」のように、誰かタレントを立てて、タレントの知名度で集客をはかろうとしているようだ。また、横浜、吉祥寺、大宮にある「柚きらり」は柚子料理と東北郷土料理の店で、意外とまじめに業態開発をし始めたのかもしれない。本当にそうなら朗報だが。

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エー・ピーカンパニー「塚田農場」でもらえる来店頻度によって昇進していく名刺。

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モンテローザ「山内農場」でも同様なサービスが。こんな細かいところまで似ているとは。

 モンテローザも、単純な模倣から合わせ技の模倣へと、独自の進化を遂げており、前人未到のもはや芸術的な"パクリ!?の高峰"に達している。ゴールデンマジック「九州熱中屋」にかばはうす「山陰炉端かば」やエー・ピーカンパニー「塚田農場」の要素も加えて、「九州料理かば屋」を構築。「九州熱中屋」が店名に"LIVE"を付けているとなると、わざわざ商業施設「LIVIN」近くの「白木屋」を選定して業態転換。"LIVIN裏店"を出店するといった発想は、常人で思いつくものではない。

 「目利きの銀次」にしても、沖縄のみたのクリエイト「目利きの銀次」が商標登録がないのを確認し、沖縄では有名でも東京では有名とは言えないことも確認して、合法的に同名ブランドを展開している。24時間営業をして朝食、ランチも提供するのはSFPダイニング「磯丸水産」に倣っていると思われる。つまり「目利きの銀次」も合わせ技の店だ。

 一方で、そこまでやるのかという細部までのTTPぶりはなかなか止められないようで「山内農場」にも発揮されており、エー・ピーカンパニー「塚田農場」で顧客に名刺をつくり、来店回数によって、肩書がアップするようなサービスをしているとなると同じようなシステムのサービスを「山内農場」でも行っている。

 かつて存在していた「ステーキハンバーグ&サラダバー テル」は、エムグラントフードサービス「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」のメニューに、ステーキ、ハンバーグ、カレーのあるサラダバーが酷似しているばかりでなく、アイスクリーム食べ放題のシステム、アイスクリームバーの容器まで酷似していて驚愕したものだ。

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フジオフードサービス「まいどおおきに食堂」外観と店内。このチェーンは「○○食堂」と表示し、○○の部分に地名が入る。

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「まいどおおきに食堂」に酷似していると提訴された、ライフフーズ「めしや食堂」外観と店内。判決では似ていないと判断された。

 とはいえ、モンテローザ、川中商事はトレード・ドレスが認められる方向なのが、世界の趨勢であることを敏感に感じ取り、少し違った動きを取ってきているのではないかと思う。しかし、日本の知的財産に関する法整備は遅れており、世間一般では許されないようなあからさまなパクリが、法的には許されてしまうような判断が、裁判官によってはなされかねない状況に未だあるのは現実だ。

 もし、万が一、「鳥貴族」、「丸源ラーメン」の主張が退けられ、「鳥二郎」、「にく次郎」の営業が現状のまま認められるような司法の判断がなされるのなら、トレード・ドレス確立に向けた立法、あるいは商標法改正に向けて、飲食業界一丸になって声を挙げていかなければならない。そうでないと、誰もまじめに業態開発に取り組まなくなり、外食産業全体のチャレンジ精神の喪失を招く。イノベーションを起こそうという気概が薄れて停滞し、さらには衰退の道を歩むことになるからだ。

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